ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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396 アジサイ

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 通学路にはお庭の手入れに気合を入れているお宅がチラホラ。
 季節ごとに色とりどりの花々が咲き乱れては、通りを行く多くの人たちの目を楽しませている。
 いつものように仲良く下校していたミヨちゃんとヒニクちゃん。
 いま二人の目の前には淡い紫の艶姿を披露しているアジサイの姿がある。
 ちょうど角にあるお宅にて、昔からここでは通りに面した隅っこにて、アジサイの姿があった。おかげで、季節になると「あぁ、今年も、もうそんな時期になったのか」としみじみ。

「そういえばアジサイって地面に植えたら、あとは放っておくだけでいいんだって」

 そう言ったのはミヨちゃん。
 なんでもテレビの園芸番組で放送されていたそうな。
 近頃、なにやら巷では園芸ブームにて、女性のみならず男性たちの間でも観葉植物を育てたりするのが流行っているそうな。
 草食男子全盛の世にあって、まさかの草木とイチャコラする植物男子の登場。
 あまりにものめり込み過ぎて、その愛情の注ぎ具合たるや、ちょっと常軌を逸するレベルの人もいるんだとか。
 そのように若い男たちの興味がより内向きとなり、その煽りを受けてあぶれたヨーコ先生のような女性陣が、日夜、ビール片手に「けっ、あんな青臭いひょろひょろの、どこがいいんだよ」とグチグチする姿が増殖すると。

「園芸王子とかもいて女性にも大人気なんだけど、園芸プリンセスがいないんだよねえ。アイドルっぽいのはいるらしいんだけど、なんだか狙っているようで意外と男の人って、そういうのをいやがるんだよ」

 流行の裏に見え隠れする大人の事情に言及するミヨちゃん。
 小学二年生に悟られている時点で、まぁ、その程度のシロモノということ。
 インテリアグリーンとかおしゃれな言い方もするそうだが、どうせ愛情を注ぐのならば女の人にしておけよとか、ぷつぷつ言ったのちに「来シーズンも残ってればいいだけどねえ」

 少々話が横道にそれたが、話題はキレイなアジサイのお花。

「アジサイって毒があるって知ってた? あとムシよけにもなるって話だよ。それからカタツムリも近寄らないんだって。だから絵本とかで葉っぱにのってるのはウソなんだよ」

 ミヨちゃんの口から語られるアジサイうんちくの数々。
 そういえば誰がアジサイとカタツムリをセット販売しだしたのかなぁ、と首を傾げる。
 その拍子にくせっ毛の端がピロリンと跳ねた。
 ヒニクちゃんも同じように首をかしげるも、あいにくとわからない。
 ゆえに自分が知っている知識を披露することにして、おもむろに口を開く。

「カタツムリ、じつは雨が苦手」

 ぬめぬめとした体ゆえに水気と相性が良さそうだけれども、
 じつははげしい雨や水溜まりに落ちちゃうとブクブク溺れる。
 だって彼は肺呼吸する生き物だから。しかも泳ぎが超下手。
 でも雌雄同体とか自家受精とか、けっこうすごい存在だと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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