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493 ベントー
しおりを挟む小学校には給食がある。
けれども市内の小学校すべてをまかなっている給食センターに不具合が生じ、供給がストップ。
べつに重大な食中毒とかが発生したのではなくって、カミナリにて電気系統が丸ごとシャットダウン。あちこちプスプスと焦げたニオイを漂わせ、調べてみたら「あー」となっちゃったから。
そろそろ耐久年数も限界を迎えつつあり、設備を新たに整える準備もしていたおり、あとは予定日を待つばかりの段階でのトラブル。
本来であれば三連休を利用して行われるはずだったのだが、それが前倒しとなる。
だがそこで問題となったのが、三日分の給食。
学校全体をカバーできるような業者なんて、そうそういない。ましてや市内全校分ともなれば、とてもとても。
ゆえに各校にて個別に対処することが早々に決まったのだが、ミヨちゃんのところは三日間だけお弁当持参という選択をとる。
親御さんたちはたいへんだけれども、これには子どもたちは大よろこび。「遠足みたい」とはしゃぐ。
が、各家庭にも事情があり、これはこれで別の問題が発生するわけで……。
初日。
ミヨちゃんが持参したのはサンドイッチ。
このタイミングにて、ヤマダ家では風邪が大流行。お父さんとミヨちゃん以外、全員がダウンという緊急事態。
ゴホゴホ咳をしながら、マスク姿のお母さんが「作るから」と言ってくれたが、おでこにひんやりシートを張って、顔を真っ赤にしてふらふらの母親にそんなムリはさせられぬと、ミヨちゃんが頑なに拒む。おばあちゃんも同様。
幸いなことにミヨちゃんは小学二年生にしては料理が出来る方。
とはいえ、カレーとかシチューなどの煮込み料理メインにて、お弁当作りは難易度が高すぎる。
冷凍食品に頼れば、ゴハンといっしょに詰めるだけなのだが、あいにくとストックが皆無。
苦肉の策として安易に作れるパンをチョイス。
二日目。
ミヨちゃんが持参したのはおにぎり。
ゴハンは炊いた。サランラップを広げて、そこにご飯と適当な具材を放り込み、ギュッギュと巾着のように絞れば、おにぎりモドキの完成。
なおついにお父さんもダウンして会社を休んでいる。お母さんたちは大人しくしていればいいものを、ちょっと体調がよくなったとたんに細々としたことをやった結果、ものの見事にぶり返した。
夕食などはやっこ姉さん他が、お見舞いに持ってきてくれた品で済ます。
なお現在、給食が出ない状況であることは伏せておく。話せば世話焼きのやっこ姉さんのことだから、すすんでお弁当を作ってくれるだろうけれども、彼女も祖母と同年代。けっこうな高齢につき、うっかり風邪をうつしてしまったらたいへん。だから黙っていることを幼女は選択。
三日目。
慣れない家事と気苦労がたたり、ミヨちゃん朝寝坊。
家の大人たちはまだ動けそうもない。そして冷蔵庫には食材はあるものの、ミヨちゃんが扱える品が皆無。さすがに魚はさばけない。
病人のくせに、おかゆを鍋一杯たいらげる二人の兄たちのせいで、炊飯ジャーの中も空っぽ。レンジでチンできるゴハンパックのストックも尽きている。
時間もないことだし、通学途中にコンビニエンスストアによってお弁当を購入し持参。
「われながらなさけない。三日ももたなかったよ。お母さんが元気になったら、もう少し家の手伝いをがんばって料理をおぼえようと思う」
ミヨちゃんの健気な言葉に、友人一同感涙。
「このソーセージを食べて。チーズ入りだよ」
「わたしは卵焼きをあげる。甘くておいしいよ」
「このからあげをどうぞ。秘伝のタレで仕込んだ自慢のいっぴん」
相次ぐおすそ分けを頂きミヨちゃんも感激。
だがそんな教え子たちの微笑ましい姿を、うらやましげに見つめている女が一人。
担任のヨーコ先生である。独身三十路手前、ものぐさ女教師は連日コンビニ弁当。かろうじて栄養バランスを保つ役割をはたしていた給食が停止して、地味にこたえているダメな大人。
「先生にも愛の手をさしのべて欲しいなぁー」
聞えよがしにつぶやくも、子どもたちはツイと目をそらし、ツーンとそっぽをむく。
すでに初日と二日目に甘やかして、みなえらい目に合っているのだ。コンビニ弁当のつけ合わせの漬物や小梅と、持参弁当のメインのオカズである唐揚げやタコさんウインナーとの交換では、あまりにもわりが合わない。
とどのつまり、不義理が招いた結果。
この対照的な両者の様子を目撃したヒニクちゃん。自分のお弁当の中から大きなミートボールを一つミヨちゃんにおすそ分けしながら、ポツリ。
「いざというときに出る人望の差」
損して「得」とれは、目先の利に走らず、その先を狙え。
損して「徳」とれは、がんばっていれば、いずれ認められる。
独身には独身たる理由があることをいい加減に悟らないと、先生……。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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