ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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494 映え

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 流行のキーワードは「インスタ映え」らしい。
 みんなと繋がれるソーシャル・ネットワーキング・サービス、略して「SNS」にて写真などを投稿して、これを見た人たちからたくさんの「いいね」という反応をもらう。
 一度でもこいつを体験すると、病みつきになって、夢中になるとか。
 おかげで巷では、多くのサービス利用者たちがスマートフォン片手に、鵜の目鷹の目にて「インスタ映え」するモノや光景を探している。
 こいつを見事に捕まえたならば、寂れたしょぼい観光地でもたちまち息を吹き返し、客でごった返す。
 さっぱり人気のない飲食店でも、連日の大行列でうれしい悲鳴を「ヒー」
 誰からも見向きもされなかった商品が爆売れし、新たなファッションの起爆剤となり、ときには人生の道がおおいに開けちゃうこともある。
 誰かに見られたい。誰かに認められたい。
 自分はここにいる。自分はここに生きている。
 心の内にみんなが抱えている承認欲求を見事に刺激し、これを満たすツールは、もはや現代社会に深く根をはり、日常に溶け込むまでに至った。

 だからミヨちゃんは思った。

「自分はまだスマートフォンを持っていない。だがいずれは制服が似合うお年頃になれば手に入れることになる。そのときのために、ある程度、インスタ映えの弾を用意しておけば、青春という名の荒野もたくましく渡っていけるのでは」と。

 世の中には「捕らぬ狸の皮算用」ということわざがある。
 しかし「備えあれば憂いなし」ということわざもある。
 だから、とりあえず親友の主張を受けてヒニクちゃんはコクンと頷いておくことにした。
 仲良しの彼女から賛同を得て、ムフンと鼻を鳴らしたミヨちゃん。

「それでさっそく通学路にて、それっぽいのを見つけてみました。その第一弾がコレなの」

 そう言ってミヨちゃんが指し示したのはゴミ捨て場に設置された看板。
 小さなモノで大学ノートぐらいの大きさしかない。明らかに素人仕事にて安っぽい造り。
 だがそこにはこう書かれてあった。

『死体を捨てるな!』

 ギョッとして、おもわず二度見してしまうような過激な内容。
 看板には、ただコレだけが書かれており、誰が設置したのか、どういった経緯でこんな品があるのかも一切記載されていない。
 見るものの想像力をどうにも刺激してやまない。

「わたしは誰かがペットの死体を捨てちゃったのが原因だとにらんでいるんだけど」

 自分の推理を披露するミヨちゃん。
 当たらずとも遠からずといった気もするが、ペットにもいろいろ。
 熱帯魚やハムスターぐらいならば、あるいは小鳥?
 でもイヌ、ネコなどになるとちょっと……。
 常識的に考えれば、さすがに人間なんてことはなかろう。
 アハハハ、と笑い飛ばせないのが悩ましい幼女たち。
 なにせすぐ横の電信柱の根元に置かれた牛乳ビンと枯れた花の姿があるもので。

 なにやらモヤモヤしたものを抱えつつ、下校を再開したミヨちゃんとヒニクちゃん。
 しばらく進むと、ふたたびミヨちゃんが立ち止まり「インスタ映え、第二弾がコレ」と言った。
 幼女が指し示したのは公園の入り口付近に生えている木の幹。
 まるで老婆の絶叫顔のような模様をしており、これが見る角度によっては、実によく出来ている。
 ちなみに第三弾は女の人に見える壁の染み。
 子どもを抱いた着物の女の人のように見えて雰囲気ばっちり。
 だがミヨちゃんはこれらを得々とヒニクちゃんに見せて、改めて考えこんでしまった。

「アレ? なんかちょっとちがうかも」とミヨちゃんが首をひねったところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「素人が撮影した写真なのに、にじみ出るあざとさが『いいね』を遠ざける」

 本来ならば、偶然にて奇跡的に切り取られた日常の一枚だったはず。
 冗談みたいな大盛り料理とか、見た目重視の盛り付けとか、
 狙って作ったインスタ映えスポットだとか。なんだかなぁ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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