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511 文化祭
しおりを挟む土日を利用して地元の高校で催されてる文化祭。
いろんな食べ物の屋台、クラスごとに趣向を凝らした出店、バンドや演劇、吹奏楽部のコンサートなどなどステージイベントも盛りだくさん。地域の企業や商店とのコラボ企画なんかもあって、なかなかの本格派。
そして女の子たちの制服姿も、なかなかの高レベルにて密かに地元の男子たち憧れのお祭りでもある。
はるか昔のおおらかな時代には、参加者自由にて、誰でも校内に立ち入れたのだけれども、巷に蔓延る悪逆の徒どものせいで、すっかり物騒となり、防犯上の観点から入場制限が設けられるように。
チケットを持たぬ者は、鉄の門扉と、その脇にて仁王立ちしている厳つい警備員らによって、近寄ることも適わない。
毎年、忍び込もうとする阿呆たちがあらわれるものの、必ず阻止されて問答無用で叩き出される。
校内の構造を熟知し、なおかつ鍛え上げられたマッチョたちは最強の守護神。その鉄壁の守りを破る猛者は何処か。
今年もフェンスを乗り越えようとした愚か者らが捕縛され、襟首を掴まれては警備員室という名の独房へと引きずられていく。さすがにこの程度では警察に通報はされないけれども、お仕置きナシにて無罪放免とはいかない。一線を超えようとした者らには、これより母親に連絡を入れて、迎えに来てもらうという恥辱が待っている。
制服姿の鬼さんたちに引きずられていく若人らを尻目に、正門前に居たのはミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
ミヨちゃんの次兄であるタカ兄はここの在校生。
そして長兄のヒロ兄は卒業生でもある。
ゆえに身内用のプラチナチケットが必ず回って来るという幸運に恵まれていた。
堂々とチケットを受け付け係のお姉さんたちに提示。
笑顔で「ようこそ」と出迎えられ、名簿に氏名と連絡先などを記入して校内へと。
が、一歩踏み出した途端に捕獲された。
犯人はタカ兄である。
女装メイド喫茶という、悪ノリの極みのような催しをしているタカ兄のクラス。
だが幸いなるかな、タカ兄はくじ引きにて裏方担当。おかげでミヨちゃんはバケモノに抱き上げられるという悲惨な事態だけは免れられた。
「よくきた、二人とも。さぁ、どこから回ろうか。クレープでもタコ焼きでも、なんでもおごってやるぞ」
順調にすくすくシスコンの階段を登り続けているタカ兄。彼のテンションが異様に高い。
なにせ年の離れた妹を溺愛する男からすれば、文化祭を自分の妹プラスワンと巡るなんて、素敵ときめきイベントにほかならないから。それこそ鼻血でも噴き出して倒れかねない興奮っぷり。
周囲にはかわいらしい同年配のお嬢さん方がいっぱいいるというのに、妹に首ったけの兄。
お人形のように抱き上げられた当のミヨちゃんは、ちょっと困惑気味。
さりとて本日の財務大臣の機嫌を損ねたら取り分が減ってしまう。ゆえにここは適当に話を合せることに。
覚悟を決めた女の子は強い。
あざといまでに愛らしい妹を演じ、兄を翻弄する小悪魔と化す。
それを眺めていたヒニクちゃんは密かに思った。「今日、タカ兄さんは破産するかもしれない」と。
兄妹とヒニクちゃんで校内を巡る。クレープを喰らい、チョコバナナをかじり、リンゴ飴を買ってもらい、ご満悦な幼女たち。
通りすがる教師たちがやたらと愛想よく親切だったのは、おそらく「大きくなったら、ぜひ我が校へ」との下心があるからか。少子化の時代、生徒集めもたいへん。そんな裏事情を垣間見つつ、あっちキョロキョロ、こっちウロウロ。
文化祭は楽しい。だからつい浮かれて、ミヨちゃんたちはあることを失念していた。
それはここが、いろんなお兄さんお姉さんたちが集う学び舎にて、当然ながら同好の士や、ガチで小さな子が好きな者もいるということを。
そんな連中の前に舞い降りた二人の天使。
気づけば、ぞろぞろと変な行列が背後に出来ていた。
これを見たヒニクちゃんがぼそり。
「これがウワサに名高い百鬼夜行か」
百鬼夜行とは、いろんな物の怪たちが集いし、ナイトパレード。
もしくは得体の知れない人たちが集い、奇々怪々な振舞いにてはしゃぐこと。
はてさて、こいつはどっちなのかしらん。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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