ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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512 交換

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 購入した商品にて不具合があり、すぐに店舗に連絡を入れて新しい品と交換してもらう。
 口で言うのは簡単だけれども、これが存外、苦手という人もいる。
 生来の気弱な性質だったりすると、「店側の機嫌を損ねないかしら」「悪質なクレーマーだと思われないかしら」「自分で壊したくせに、いけしゃあしゃあと図々しいとか思われて、裏で店員さんたちに陰口を言われないかしら」などなど。
 いろいろと考えてしまい、不安でビクビク。
 そのまま泣き寝入りなんてことも。
 もちろん不良品の金額にもよるだろう。
 パソコンや時計、電化製品とかの購入金額が高く、使用目的も明確ならば、よほどのことがない限りは、大抵の人がお店に「実は……」と連絡を入れる。
 でも、これがスーパーの食品とかではどうであろうか?
 五個入りの果物。うち一つがちょっと傷んでいた。
 もともと足の早い食べ物ゆえに、そういうこともままある。
 ここでその一個のために、わざわざ購入したスーパーにまで文句を言いに行くか。
 それとも「一個ぐらいしようがないよね」と諦めて自主廃棄してしまうか。
 もちろん異物混入とかならば話は別だけれども、それでも言わない人は言わずに、一切の口をつぐむ。
 かと思えば、ネットで大々的にアピールしちゃう目立ちたがり屋もいる。
 これが百円均一の雑貨とかならばどうか?
「チェッ、ハズレをひいてしまったか」と諦めるか、「断固としてチェンジ!」と勇んで再訪するか。
 距離の問題もある。
 車で通う圏内なのか、自転車なのか、はたまた歩きか。
 お天気具合にもよるだろう。
 土砂降りの雨の中ではさすがにちょっととなる。
 中には「こっちは客で被害者なんだから、そっちが出向け」「わびを入れろ」「誠意を見せろ」なんぞと強気な態度に出る方もいるだろう。

 この手の問題は、どの商店も大なり小なり抱えては頭を悩ましている。
 それでもって、目下、ミヨちゃんを悩ましているのが、つい先日、お母さんに買ってもらったスニーカー。
 シンプルなフォルムに、ちょっと厚底。でもほどよくクッションが効いており軽くて歩きやすい。赤いチェック柄も愛らしくミヨちゃんはとっても気に入っている。
 でもそんなお気に入りに不具合を見つけてしまった。
 靴の外縁部を縫い留めている糸におおきなほつれが……。
 ムシしようかと思ったけれども、ほつれている部分はクツの構造的にけっこう重要な場所。放置していたらいずれバラバラなんていう懸念も。
 ぶっちゃけたった一度、学校への登下校に履いていっただけで、こんなことになっている時点で、返品案件。
 でも、これはお気に入り。
 しかもお店に残っていた最後の一つ。
 それゆえにミヨちゃんは「うーん」と眉間を寄せて、ムズカシイ顔をしていた。

「代わりがあったらよかったんだけど、あいにくサイズがなかったんだぁ。このままだとマズいのはわかってるんだけど、外で履いちゃってるし、持っていって店員さんに疑われたらイヤだしなぁ。でもこのままだといずれダメになっちゃいそうだし、それはそれでお母さんに怒られると思うんだよねえ。となるとやっぱり正直に言うべきなんだけど、そうしたらこのクツとバイバイしなくちゃいけないし」

 いろんな感情が交差して、揺れ動く幼女の心。
 それを前にしておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「遠慮は無用。正当な理由があれば、堂々と主張すべし」

 なまじ遠慮されて、結果としてクツが原因で大怪我とかされたら、
 そっちの方がお店としては怖いもの。何を購入しても一定の割合にて、
 ハズレは紛れ込んでいる。そこは割り切らないと。
 控えめ慎ましやかなのは美徳だけど、必要な主張をしないのは別。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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