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539 エクスカリバー
しおりを挟む「だれか、エクスカリバー、いらない?」
いきなりミヨちゃんがそんなことを口走ったものだから、給食の場がざわついた。
すわ中二病ならぬ、小二病か!
同じ班であるアイちゃん、チエミちゃん、リョウコちゃん、ヒニクちゃんらは、揃って首をかしげる。
そののちに三人の視線がヒニクちゃんに救いを求めるように向けられるも、ヒニクちゃんは黙って首をふった。
その仕草をみて、どうやら一番の仲良しである彼女も事情を知らないらしいと察した三人。ひそひそと協議に入る。
「エクスカリバーって、ゲームとかによく登場する剣のことだよな」とリョウコちゃん。
「えっ、アーサー王が岩から抜いた聖剣のことじゃないの?」とアイちゃん。
「どっちも合ってる。聖剣といえばソレってぐらいに超有名。たぶん知名度なら一番じゃないかな」とはチエミちゃん。
問題はそんなシロモノをどうしてミヨちゃんが? ということ。
というか、そもそも本物のワケがない。
「はやりのコスプレとかかな? そういう小道具の専門店があるって聞いたことがあるわ。クオリティが高いから外国のお客さまにも人気だとか」
クラスのオシャレ番長のアイちゃん。ファッションに抵触する情報なので、いちおうはチェックしていた。
「気合の入ったコスプレイヤーは自作するって、聞いたことあるぞ」
テレビか何かで見た記憶を掘り越したのはリョウコちゃん。
「買ったらいい値段がすると思うんだよね。となるとお手製の線が濃厚か。とはいえわざわざ作るって……、今度は何のマンガを読んだんだろう」
ミヨちゃんの少女マンガ好きは周知の事実にて、幼いがゆえにちょいちょい影響を受ける。チエミちゃんはそのことから今回の一件を推察する。
そんな三人に向かってミヨちゃん「ねえ、だれかいらない。すっごく邪魔なの」
その発言からちゃちなオモチャではなくて、けっこうなサイズであることが判明。
「剣なんて棒みたいなもんだよな。タンスの裏にでも突っ込んでおけば、邪魔にならないだろうに」リョウコちゃんが言った。「ただし、ホコリまみれになるけどな」
「ある程度、長さがあると立てても寝かせても場所をとるから」とはアイちゃん。
「適当に扱えないってことは、重量がある線も捨てきれないわね」とはチエミちゃん。
三人集まれば文殊の知恵と言うけれども、いまいち。
そこでアイちゃんたちは素直にミヨちゃんに事情をたずねることにする。
ヤマダ宅にエクスカリバーがやってきたのは、ちょうど一週間前。
持ち帰ったのは大学院生のヒロ兄。
学園祭終了後の打ち上げ、二次会にて開催されたビンゴ大会。
その景品として当たってしまったらしい。
ある程度、お酒が入っていたこともあり、ヒロ兄はヘンなテンションに身をまかせ、そのまま持ち帰ってしまう。
それは立派な両手剣にて、初めはミヨちゃんや高校生のタカ兄は「かっけー」とよろこんだ。
だが日本家屋にエクスカリバーはあまりにも不釣り合い。それはもう盛大に浮きまくった。
当初はヒロ兄の自室に置いていたが、「なんだか集中できない」と放出。
次にタカ兄の部屋へと移動するものの、夜中に寝ぼけてガタンと倒し、ドスン! 家族みんなが「なにごと」と飛び起きる事態に。
満を持して末妹のミヨちゃんの部屋に来たが、到着早々、床に置いてあるそれで足の小指をコツンとやって悶絶。
おばあちゃんは引き取りを断固拒否。
お母さんとお父さんの夫婦の寝室には似つかわしくないので、タンスに放り込んだら何かの拍子に中でガタゴトと暴れ、お父さんの背広にビリリと裂け目が! お母さんのジャケットも!
「そんなわけで家の中に置いておくと、何かと祟るから庭の物置に放り込もうとしたんだけど、あっちもいっぱいで。納戸にも入らないし」
捨てるには惜しい本格派な造り。
というかそれゆえに気軽に捨てられない。
そこで「だれかウチの子、貰って」とミヨちゃん。
事情を知って幼女たちは納得。まぁ、だからとて誰一人手はあげないけれども。
エクスカリバーをめぐる騒動を知ったヒニクちゃんが、ここでおもむろに口を開く。
「鞘は?」
なんでも斬れて、勝利を約束してくれる魔法の剣。
でも鞘もすごくって、身につけていると不死身になれるとか。
もっとも剣よりさらに大きな鞘を常に持ち歩くとか、とんだ苦行。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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