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540 しっぽ
しおりを挟む給食にエビフライがでた。
タルタルソース付き。
そしてパンはコッペパン。
これはもう挟むしかあるまいと、大多数の子どもたちがエビドッグを作成し、豪快にかぶりついている。
ミヨちゃんも大口を開けて、ガブリ。
だが半分ほど平らげたところで、ふと、こんなことを言い出した。
「そういえば、みんなは尻尾、食べちゃう派? それとも残す派?」
じつは、二日ほど前のこと。
ヤマダ宅の夕食に天ぷらが出た。
お母さんが揚げたものにて、少々厚めの衣がもっさりしているものの、味は悪くない。よくも悪くも家庭のてんぷら。
エビ、トリ肉、レンコン、ゴボウ、ニンジン、コーン、サツマイモ、ピーマン、オクラ、かぼちゃ、マイタケ、ナス、チクワ、イカ、大葉、かき揚げ、プチトマト、アスパラガス、シュウマイ、カニカマ……。
メジャーなネタから、ちょっと変わり種まで。
お母さんはがんばった。けっしてこれを機会に冷蔵庫の中身を整理しようとか目論んだわけではない。
「どれも美味しいんだけど、エビがねえ……」とミヨちゃん。
ヤマダ家は子供が三人、祖母に両親の六人家族。
けっこうな数ゆえに、エビは一人二尾までとの厳格なルールが設けられている。
数年前にエビの偽装販売が社会をおおいに賑わせて以来、エビはすっかり高くなった。庶民からすればブラックタイガーだろうが、バナメイエビだろうが、美味しければどっちでもよかったのに。
社会正義を追求した影響が、回り回ってとある街に住むとある家庭の食卓を直撃!
「で、てんぷらのエビといえばやっぱり花形でしょう。本当は五尾ぐらい食べたいんだけど。それでそのエビの尻尾なんだけど、わたしは食べないんだ。お母さんがちゃんとキレイに掃除をしているから大丈夫らしいんだけど。念のために止めておきなさいって。でもお兄ちゃんたちはバリバリ食べちゃうの。それがちょっとうらやましくって」
男兄弟はちょっとぐらいヤンチャしても許される。
でも末妹のミヨちゃんは、とっても大事にされているから、愛ゆえにときおり厳格な扱いとなる。
あと自分が残したエビの尻尾を奪い合う二人の兄にも、ちょっと思うところがある複雑な幼女心。内心では「それはイヤかなぁ」と感じているけれども、言ったら兄たちが傷つきそうなので、秘密。
「尻尾かぁ、わたしは食べないかな。けっこう固いし、うっかり口の中とか傷ついたら痛いし」とはリョウコちゃん。
「美容成分が含まれているらしいけれども、うちは出される前に切り取られているわね」とはアイちゃん。
「わたしもパス。口の中に残るし、歯の間に挟まるとけっこう大変なんだよね。アレ」とはチエミちゃん。
ミヨちゃんがヒニクちゃんの方を見れば、無言にて首をふるふる。
それで彼女も食べない派だと了解。
「案外、食べる人って身近にいないんもんなんだねえ」
みなの意見を聞いて、ミヨちゃんがしみじみそうつぶやく。
かと思えば、その視線がヨーコ先生に注がれていた。
視線の先では、いままさにヨーコ先生がエビフライを尻尾ごと豪快にひと呑みにするところであった。
その姿をみんなといっしょに見ていたヒニクちゃん。おもむろに口を開く。
「エビのしっぽはゴキブリの羽と同じ成分らしい」
きちんと掃除しないと食中毒の原因になるから要注意。
キチンという成分は肥満予防や免疫力向上にて、特定保健用食品にも活用。
アスタキサンチンはシワやたるみの原因となる活性酵素を除去。
抗酸化力にて美食材。何かを得るには何かを手放す。あぁ、人生は無常。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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