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566 不老長寿
しおりを挟む給食のデザートにたまに出てくる果物のミカン。
オレンジとのちがいはよくわからないが、まずまず甘酸っぱくて美味しい。
冬のこたつとの相性もバツグンだ。
お菓子をパクパク食べたら怒るお母さんも、ミカンだとせいぜい「あんまり食べ過ぎて黄色くなっても知らないわよ」と言うぐらい。
皮をむいて実を一つずつ、口に放り込んではモグモグ。
「うー、酸っぱい。今日のはハズレかぁ」顔をクシャとしたのはミヨちゃん。「そういえば鏡餅の上にミカンをのっけてるけど、アレってなんで?」
ランチタイムに投げかけられた幼女の疑問。
小池に投げ込まれた石のごとく波紋を起こし、とたんに周囲がザワザワ。
「やっぱり縁起がいいからじゃないかしら」
口火を切ったのはクラスのオシャレ番長のアイちゃん。
自宅に飾る鏡餅は、プラスチック容器の中に小袋の奴がわらわら入ったタイプ。
利便性は申し分ないのだが、いささか情緒に欠けるのがちょっと。
「でも丸くて転がるから、たまにコテンって上から落っこちてるよな」
そう言ったのはスポーツ少女のリョウコちゃん。
彼女の家では父母が餅をつく。つくといっても機械で作るわけだが、今時、自作とはなかなか。まぁ、自分のところで作った餅は格別美味い。出来立てに、きな粉なんぞをたっぷりまぶして頬張ったら、最高!
「うちは手の平サイズのを各部屋に飾るかな」
容姿、能力、何もかもが平均値に収まるチエミちゃんは団地住まい。
限られたスペース、核家族のつつましい世帯には、大きなモノは不要。
というのは建前にて、本音は市販の小さい鏡餅の上についてる干支フィギュアを集めているから。シリーズを自力でコンプリートしようとすれば、最低でも十二年かかるという気の長いチャレンジに、チエミちゃんは邁進中。
「あっ! アレ、かわいいよね。わたしもイノシシのやつ持ってるよ」とミヨちゃん。
「うんうん、そうでしょうとも。もっともアレにもなぜだかミカンがあるんだよね。もちろん人気は断トツでないけど」とはチエミちゃん。
なんでも売り場に行けば、その人気度は一目瞭然。
かわいい干支フィギュア飾りのついた鏡餅が九としたら、ミカンの飾りがのった品は一。
素人目にも売れ筋がひと目でわかる。扱いの差。
もっともこれで同じ値段なのだから、「ふつうはかわいい方を買うよね」とのチエミちゃんの言葉に、一同うなづき「そりゃそうだ」
やや話しが横道にそれたが、とにかく鏡餅の上のミカン飾りはイマイチ。
それが世間の反応だということが、チエミちゃんの情報より判明し、幼女たちは一層、頭を悩ませることになる。
ミヨちゃんたちが「あーでもない」「こーでもない」とわちゃわちゃ意見を出し合っていたら、それを小耳に挟んだヨーコ先生。ふふんと、やや得意げにて「ならば、この偉大な美人教師のわたしが教えてしんぜよう」
で、教えてもらったところでは……。
その一、三種の神器見立て説。
鏡餅がカガミ。ミカンが珠。干し柿が剣。
その二、ミカンは橙(だいだい)の代用品。
この橙という果実は、不老長寿の実とされている。
これを飾ることで、家族や家そのものが長く繁栄しますようにとの願掛け。
その一の説は、オヤジギャグばりにひどいダジャレ。
その二の説は、それっぽいけど不老長寿系なら、むしろ桃じゃね? 健康ならリンゴじゃね?
わかったような、わからないような、なにやら釈然としないミヨちゃんたち。
これを受けて、おもむろにヒニクちゃんが沈黙を破る。
「我が家はピラミッド方式を採用」
米屋さんに注文した切り餅を、並べて積んでピラミッド。
なぜだか母方の家系は昔からこのやり方。ヘンだとは思うけど、
ふしぎとカビが生えなのよね。もしかしてピラミッドパワー?
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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