ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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593 サクラ

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「うん?」

 夕食の途中でふいに顔をしかめたミヨちゃん。
 口をもごもご。
 それを見たお母さんが「どうしたの?」とたずねたら、ミヨちゃんがペッと吐き出したのは、固い何か。

「あら、もしかしてタマゴのカラでも入っちゃたかしら」とお母さん「ごめんねえ」と言った。

 けれども、ちがった。
 よくよく見れば、それはご飯粒。
 何日も炊飯器の中で保温し続けて、水分が完全に飛んでカピカピになったようなモノ。

「かたーい。歯が欠けるかとおもった」とミヨちゃん。

 でも、それを前にして今度はお母さんが首を傾げることに。
 前の晩に炊いたごはんの残りを、翌日の朝や昼に食べることはある。
 それでも一晩ぐらい炊飯ジャーの中で保温していても、かちんこちんになんてならない。
 多少は黄ばみ、水分も飛ぶが、それでもふつうに食べられるレベル。
 なのに、ミヨちゃんが吐き出したモノは、何日も放置されたような干し米であったから。

「おかしいわね。さっき炊いたばかりなのに」

 残りモノではない、炊き立てのお米。
 かちんこちんになるわけがない。だからてっきり何かのひょうしに紛れ込んだのかと思われたのだが、そのとき、今度はおばあちゃんが「あいた!」
 で、口から出したのが、末孫と同じようなモノ。
 もりもり食べるのがごはんの醍醐味。そこに異物が混じっているとなると、そうもいかない。どうしても用心しながら口を動かすことになり、いまいち食事が楽しめない。
 スクランブルエッグや、かに玉、親子丼なんかを食べているときに、タマゴのカラが混じっていて、口の中でガリっとやったら、とたんに食欲が失せるように、すっかりテンションが下がってしまったヤマダ家の食卓。
 だが、ことはこれだけで収まらなかった。
 次の日も、また次の日にも、同様の事件が起こる。
 おかげでお母さんはすっかり困惑。家族のフラストレーションもずんずん溜まる。
 食事がちっとも楽しめない。小さなストレスが積み重なり、なんだかイライラ。

 この話をヒニクちゃんにしたミヨちゃん。「で、原因は炊飯器の故障だったの」と言った。
 炊飯器の温度調節機能がおかしくなって、釜の一部がやたらと高温になり、その周辺だけお米がカチカチになるという現象が発生していたのである。
 買って二年ばかりでの故障。
 正直、釈然としないが、だからとてこのままガマンして使い続けるのもツラい。
 そこで新しい炊飯器を買うことにしたヤマダ家。
 しかし、こんな目に会うと気になるのが保温機能。
 別に何日もへっちゃらなんてことは望まないから、せめて一晩ぐらいはもってくれというのが本心。
 けれども、いざ電気屋さんにいっても、「どれだけおいしく炊けるか」ということは喧伝されているのに、こと保温になると「???」な品ばかり。
 もちろん一般的なレベルでの保温機能はあるらしいのだが、「一晩たっても、炊き立て」というのは見当たらない。
 インターネットで情報やらレビューを調べてみるも、やらせっぽいベンチャラ記事ばっかりで、いまいち信憑性がないし。

「それでなかなか決められなくってねえ。いまは土鍋ががんばってるの。美味しいけれどもお母さんがたいへんなんだぁ」とミヨちゃん。

 この話を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「サクラが咲くのは、春だけで十分」

 ネットを眺めれば、やらせレビューが溢れており、爛漫。
 行列を仕込んだり、場面を盛り上げたり、人気があるように見せかけたり、
 咲いてキレイなサクラ以外は、ぜんぶ枯れてとっとと散ればいいのに。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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