ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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 例年になく温かい年始。
 吐く息が白くなることはなく、手がかじかむこともない。
 もっとも地域によっては風雪が猛威を振るっているとのことだが、少なくともミヨちゃんの住んでいるあたりは穏やかなもの。
 天気にも恵まれたので初詣に、ちょいと電車で遠出することにしたヤマダ家。
 たまにテレビ中継もある某有名神社に家族そろって出向く。
 そしてむちゃくちゃ後悔した。
 考えることはみんな同じであったのだ。
 めちゃくちゃ人が多い。若干、命の危機を感じるほどの混雑っぷり。
 お参りの列の最後尾にプラカードを掲げたバイトの巫女さんの姿。
 彼女が「待ち時間、一時間半ぐらいでーす」と声を張り上げている姿にげんなり。
 それでも「せっかくだから」と並ぶことにする。

 二時間後。
 ようやく賽銭箱の前まで到着。
 もう、この頃になると信心なんてどこぞに吹き飛び、心の内にふつふつと沸いているのは「怒」の文字。
 冬休みは短い。
 その貴重な休みの二時間が、ただぼけっと待つということに費やされてしまった。
 とっても損した気分。これならばコタツでぬくぬくしながらお笑い番組でも見ていれば良かったと幼女がぶつくさ。
 それでも二礼二拍手一拝をして、しっかり拝む。
 みんなが健康でありますように。頭が良くなりますように。お小遣いがあがりますように。あのマンガの休載がとけますように。お父さんが買った宝くじがドーンと……。
 五円玉一枚を放り投げ、ここぞとばかりに祈りまくる。
 とりあえず頭の中にて思いつくかぎりの願望をぶっ込む。
 ミヨちゃんとて、それがすべて叶うだなんて思っちゃいない。それでもカスればラッキーぐらいの心持ち。数撃ちゃ当たる。
 かもしれない。
 人心とはすべからく身勝手なモノ。そしてワガママは子どもの特権。
 だから新年一発目から、権利を行使したミヨちゃん。ムフンと鼻息荒く、初詣をすませた。

 本命である縁日へと向かう前に、しばし甘酒片手に休憩するヤマダ一家。
 二人の兄たちと絵馬を見物しては、そこに書かれてある内容にゲラゲラと初笑い。
 あえて深くは言及しないが、けっこう阿呆なことが書かれてある。
 そのあとは兄妹三人にておみくじを引く。
 結果は……。
 大学院生のヒロ兄「中吉」学問良し。
 高校生のタカ兄「小吉」恋愛運やや進展するかも。
 小学二年生のミヨ「平」………………ひら? へい? たいら?

「えーと、なにコレ?」

 ミヨちゃん、初驚きにて目が点になった。
 おみくじといえば、大吉、中吉、小吉、末吉、凶、大凶。
 縁起のいいのもこの順番通り。
 中には「めったに出ないから」との理由にて、大凶を引いても珍重がる風潮も一部あるが、あれは悔し紛れのヘリクツであろう。
 そして「平」である。
 文面には「可もなく不可もなく。人間万事塞翁が馬」と書かれてあった。
 首を傾げる幼女、兄たちも初めてみるおみくじに困惑。
 するとおばあちゃんが「おや、すごいじゃないか、ミヨ。そいつはめったに見れないシロモノだよ」と言った。

 おばあちゃんによれば、激レアらしい。
 そもそも「平」を扱っている神社が少なく、そこから更に引き当てるとなると、それはもう宝くじを当てるようなもの。
 だが、そう言われてもミヨちゃんは素直によろこべない。

「だったらふつうに宝クジが当たってほしい」と本音をポロリともらした。



「……で、これがその『平』のおみくじなんだ」

 珍しいから持ち帰った品をヒニクちゃんに見せるミヨちゃん。
 それをしげしげと眺めつつ、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「一説によると『平』が出る確率は二パーセント以下らしい」

 そんな希少なクジを引いたことをラッキーと捉えるか。
 新年早々、貴重な運気を無駄遣いしたと嘆くか。
 一年の運の総量は決まっているとも言われるから、ちょっと悩ましいところ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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