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しおりを挟むミヨちゃんとヒニクちゃん、ミヨちゃんの祖母の同窓にて、元芸者で現在は三味線の師匠をしているやっこ姉さんに連れられて回転寿司へ行く。
「寿司が気軽に食べられる世の中がくるとはねえ」
ぐるぐる回っているレーンを眺めながら、しみじみそうつぶやいたのはオッサン。
オッサンはやっこ姉さんの実弟にて、わりと本気の風来坊にてラストサムライ。素手でヤンキーどもをぼこぼこにし、剣をとっては天下無双。ただ惜しむらくは生まれてくる時代を間違えてしまったこと。
たまたま姉のところに転がり込んでいたので、いっしょに来店。
「そうなの?」
ミヨちゃんが首を傾げたら、「そうだぞー。昔は寿司といえば高級料理の代名詞。何か特別な時にぐらいしか食べれなかったんだ」とオッサン。
そもそもふた昔ほど前には、寿司屋の数が限られていた。
ほとんどが個人商店だったのが、持ち帰り専用のお店が台頭し、敷居が一段下がった。
続けて回転寿司の機械が登場し、チェーン展開されるようになってから、敷居が更にググンと下がり、ついには低価格路線へと突入。
現在のような形態となっていくうちに、すっかり庶民の食べ物として定着。
おかげで今ではスーパーでもコンビニでも、いつでもどこでも気軽に購入できるようになる。
「まぁ、もともとは庶民の食べ物だったんだけどねえ」
そう言ったのはやっこ姉さん。
かつて寿司は屋台なんかで気軽に食べられる料理だったと教えられて、ミヨちゃんとヒニクちゃんが「へー」
「一周回って原点回帰ってことか。それにしても、ちっとも寿司が回ってこないんだが」
ぶつくさ言うオッサンにミヨちゃんが「この頃は回さないんだよ。これで注文したらギューンってやってくるの」と言ってタッチパネルを指さす。
これに「ほうほう」と感心しつつ、さっそく注文を始めるオッサン。
「姉ちゃん、赤出汁いるか?」
「あぁ、あとマグロとハマチを頼む」
「わたしはタマゴと茶碗蒸し」
「……うに、イクラ、数の子」
言われるままにタッチパネルを操作するオッサン。
パネルのそばに座ったのが運の尽き。この時点でオッサンは給仕係となることが決定されたのである。そして女たちはそれをわかっていて、席についていたことを彼のみが気づいていない。
歓談しつつ待っていると、次々と注文した品が届き始める。
上部に設置された注文専用のレーンを滑って届く様子を眺めながら、オッサンが「おぉー!」と興奮。
だが、しばらくすると首を傾げつつ、こんなことを言い出した。
「なぁ、だったら下のメインレーン、いらないんじゃないのか? ほとんど回ってないんだし。どうせたいていの客はパネルで注文するんだし。いっそ回転する機械を失くしたら、その分だけもっとコストが下がるんじゃないのか?」
それを聞いたミヨちゃんが口にひとさし指を当てて「しーっ」
ひそひそ小声にて「それは言っちゃダメ。みんなとっくに気づいているけど、あえて黙っているの。だって回らない寿司は、ただの寿司なんだもの」と言った。
お芝居を見に行って、「しょせん芝居だし」なんてことを口にするのは野暮。
映画を見に行って、「どうせ最後はご都合主義なんでしょ」なんて言うのも野暮。
真実を突き詰め、合理性を追求するだけが、人生ではない
そして回転寿司は、今日も無駄な電力を消費しつつ、カラの皿を載せて意味もなく回り続ける。
理由はとくに必要ない。それは地球に向かって「どうして毎日、ぐるぐるしているの?」と問いかけているようなもの。
ミヨちゃんとオッサンのやり取りを横目に、熱々のお茶をずずいと啜ったヒニクちゃんが、おもむろに口を開く。
「回転寿司、原価率が高いのはウニ、マグロ、イクラ」
タマゴやツナマヨ、カッパやコーンなどは逆に原価率が低い。
あと意外に安いのがエビなんだとか。
ちなみに飲食店の標準的な原価率は三割前後が適正とされている。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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