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600 加算
しおりを挟む冬休み明けの新学期一発目。
子どもたちは困惑していた。
「ひさしぶり!」
というほどの期間は開いていないけれども、それでもしばらくぶりにて、相応に変化がちらほら。
冬の最中に常夏の海外なんかに行っていれば、肌は季節外れにもかかわらずこんがり小麦色になるし、冬らしく雪山スキーなんかに出かけても、やっぱり肌は焼けるもの。
年末年始に親戚巡りにてハードな長距離移動を繰り返した子は、ちょっとゲッソリしているし、逆にのんべんだらりと過ごした子は、雰囲気がどこかポワポワしたまま。
だからとて劇的な変化にはほど遠い。
なのになのに、担任のヨーコ先生だけが明らかに変身していた。
乙女が夏休み明けに、「えっ!」という感じで一皮むけるのとはちがう。経験値を積んで進化するのではなくって、どちらかというと退化というか……。
とどのつまりヨーコ先生は太っていた。
いわゆる正月太りというやつである。
実家に戻った先生、ここぞとばかりに酒をたらふくのみ、上げ膳据え膳にて飯を喰らい、餅を喰らい、ミカンを喰らい、お菓子をむさぼり、そしてまた酒をグビリグビリと呑む。
延々と喰っちゃ寝を繰り返し、運動なんてコタツとトイレの往復ぐらい。
きっとそんなダメな生活を送っていたのであろう。
安易にそんな光景が想像できる。
なぜなら頬がたるみ首やアゴ回りがぷっくりしているもの。あの分では服の下の腹部もかなりヤバいことになっているはず。
大人同士にて正面から見ればわかりにくいレベルながらも、子ども視点にて下から見上げると、そのたるみっぷりが実によく見えてしまう。
「うわー、アゴの下がカエルさんみたいになってるよぉ」
「お酒とお餅はヤバいっていうから」
「ボクなんておせちのせいで逆にやせちゃったのに」
「オレたちには伊達巻きと栗きんとんぐらいしか食べるものないからなぁ」
「うちはハムも切ってくれるけど、真っ先になくなるよ」
「そして煮物がずっと残るんだ」
「最後は刻んでお好み焼きにして食った」
「わたしのところはカレーに。レンコンが意外にいい感じ」
「おせちの処理はどうでもいいんだよ。それより誰か言ってやれよ。ぜったにマズイって」
「こりゃあ、今年もダメだな」
「太ったままで長いこと放置したら皮がのびるらしい」
「えっ! そうなの」
「油よごれといっしょで、すぐに対処しないと手遅れになるって」
「おまえ言ってやれよ」
「えー、イヤだよ。キミが言いなよ」
「ここは委員長が」
「都合の悪いことばっかり押し付けないで! そんなことを言うんだったら委員長権限で命令しちゃうから」
「きたねえぞ! 権力の横暴だ!」
そこかしこにてヒソヒソ話に興じる子どもたち。
太った当人をよそに、外野がプチパニック。
密やかに、だが確実に教室内がざわつく。
やや空気が悪くなってきたところで、みんなの視線が自然と集まったのはとある女子生徒の席。
数多の視線をがっつり受け止めたのはヒニクちゃん。
やれやれと首をふりつつ、教壇に立つヨーコ先生に向かって口を開いた。
「切り餅一個約百二十カロリー、お酒一杯約二百カロリー」
ちなみに餅はノーマルにてアンコやきな粉、砂糖醤油などが加わると
その分だけ跳ね上がる加算方式。あとお酒に関してはワイン、ウイスキー、
ビール、日本酒、の順に高くなっていくらしい。
さぁ、己が罪を数えて恐怖におののくがよい。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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