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601 不明察
しおりを挟む金色のアイテムを持ち歩くと、金運に恵まれる。
お札の向きを合わせると、もっと集まってくるらしい。
とある神社の奥にある泉の水は霊験あらたか。
あそこの公園に行くとカップルがわかれる。
逆にあの大岩に拝むと恋愛が成就。
「新年になると、今年の運気がどうたらとかいう情報がやたらとあふれるよねえ」
休憩時間の教室で、そんなことを言い出したのはミヨちゃん。
「そうはいっても学校前に、ついついテレビの占いだけは見ちゃうんだよねえ」
星座占いなんてあてにならない。だって本当だったら、いったいどれだけの人間がそいつに左右されることになるのやら。少なく見積もっても数百万単位にて影響が及ぶ。
それでも上位に自分の星座が入っていると、機嫌がよくなる。
そう言ったのはチエミちゃん。
「いまではパワーストーンや数珠とか、ふつうに身につけるようになったものね。わたしとしては、アレはファッション的にどうかと思うんだけど」
けっこうな大物芸能人が臆面もなく手首に数珠を巻いて画面に登場するたびに、「なんだかなぁ」という気分になっているのはアイちゃん。
せめて仕事中ぐらい外せよと思う。
コーディネーターさんがせっかく考えてくれた着こなしが、アレのせいで台無しなんだもの。
そんなに外すのがイヤってことは、あんたらいったい裏で何をやらかしたんだ? と面と向かって訊ねてみたい。
「まぁ、縁起物だしねえ。だからってケーキとかで開運スイーツとか言い張るのは、さすがにやり過ぎだろう。あれってサギにならないのかなぁ」
首をひねるのはリョウコちゃん。
サッカー少女にて勝負ごとには人一倍こだわる性質ゆえに、ゲンをかつぐ気持ちはよくわかる。
自分だって試合の日には右からクツのヒモを結んだり、お気に入りのリストバンドをしたりと、ちょっとしたところに気をつかうもの。
ただし、それは精神を安定させることで、よりよいパフォーマンスを引き出すためのことであって、決して運に頼るようなシロモノではない。
「やっぱりお金が絡むとアウトなんじゃないのかなぁ。高いツボを売りつけるとか、呪われてるとか言っておどしちゃうのとか」とミヨちゃん。
するとチエミちゃん「あの数珠とかもけっこういい値段するよ。パワーストーンも。わたしからしたらグレーゾーンに見えるんだけど」
これに幼女たちはそろって「うーん」
自発的に購入し当人が満足していれば、それは問題ない……、のか?
でも弱った心につけ込んでいるような気がしなくもない。
そもそもの話、「運気ってなんぞや?」というところに帰結する。
「ほら、空気のカンヅメってあるじゃない? あんな感じじゃないのかな」
アイちゃんがそんなことを言い出した。
どこぞの名所とか観光地とか、聖地とかの空気を詰めた缶詰。
一つ千円とかふざけた値段で販売しているけれども、それなりに売れているらしい。
確かに空気は存在している。
きちんと現地で材料を採取し梱包。中身は本物。
けれども空気は空気だ。そりゃあキレイなところ汚いところはあるけれども、ある程度を境にして区別はあまりつかなくなる。
そして缶詰に入れた時点で、その空気は間違いなく缶詰の影響をモロに受ける。
いわば缶詰の空気に成り下がるわけだ。
空気があるのは誰もが知っている。大切なものだし、ないと困る。けれどもふだんは特に意識しない。本当にお金を払ってでも必要だと感じるときは、かなり危機的状況に陥っているときであろう。
価値はあるけれども、それを思い知るのはピンチのときだけ。
運気もまた同様の存在なのではと、自論を展開したアイちゃん。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「運気とは自然界の現象に現れる人間の運勢」
でもって運勢とは、幸運や不運のめぐり合わせのこと。
運勢は一定ではなく、その時々にいろんな影響を受けて乱高下。
ちなみに運命は、人の意思をこえて身の上に起きる禍福。
運気を信じると必然的に運命へと至り、結局あれれ? となる。
己のこともままならぬのに、運気がどうとか一万年早い。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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