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606 しんぶんし

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 冬の朝。
 ちょっと寒くって布団が恋しいけれども、それを振り払っての起床。
 勢いよくカーテンをシャーッと開けて、朝日に向かって「うーん」と背伸び。
「よし、今日も一日がんばろう!」と気合もいれるも、次の瞬間にはテンションだだ下がり。
 窓ガラスがびしょびしょ。
 結露である。外気と内気の差によって生じる自然現象。
 それが滝となり木製の窓枠もぬれぬれ。
「はっ!」とさっき開けたカーテンをよくよく調べてみれば、水気でしんなりしており縁の方には黒い点々の姿が……。
 その正体はカビ!
 結露で濡れたカーテンを放置していたせいで発生したモノ。
 朝一にてそんなシロモノを目の当たりにすれば、菌類大好きっ子か専門の学者先生でもない限りは、十中八九「えー」となる。
 だからミヨちゃんも「えー」となった。
 さわやかな朝が台無し。
 それでも容赦なく地球は周り、時間は進み続ける。
 だからミヨちゃんは、うなだれつつ登校の準備を始めた。

 ある日の放課後の掃除の時間。
 窓ガラスを雑巾で拭きながら、「結露にはまいったよ」と言ったのはミヨちゃん。
 いっしょになって雑巾がけをしていたヒニクちゃん相手に、ちょっとグチっている。

「電車でもバスでも、どんな家でも結露って発生するんだって。もう、イヤになっちゃう」

 もちろん二十四時間年中無休にて温度調節がされてある室内ならば、防げるのであろうが、それにはとっても電気代がかかるし、設備やら立地などの条件も必要。
 とどのつまり庶民にはちょっと手がでない。
 発生するのはしようがないので、カビを生やさないためにもこまめに拭くのが正解。
 だが、それが面倒くさい。
 起床するたびに窓の雑巾がけとか、ちっとも楽しくない。
 かといって部屋の中をずっとカンカンに乾燥していたら、そんなところにいたら目が乾いてノドもガラガラ。お肌もかぴかぴにて、遠からず病気になってしまう。
 ほどよい潤いは必須。けれども結露はイヤ、そしてカビもノーサンキュー。

「これは、もう呪いだよ」とまで言ったミヨちゃん。

 なにせテレビのコマーシャルでやっているような、天井の高い新築一戸建てとかゴージャスなタワーマンションとかでも、この呪いからは逃れられない。
 家が家である以上はどこまでもついてくる。
 こちらの抵抗や努力を嘲笑うかのようにして、いかなる警護もすり抜けって奴は侵入してくる。

「結露スプレーとかいうのもやってみたんだけどダメだった。台所洗剤がいいっていうから試したんだけど、これも微妙なんだぁ。いろいろやって安くて効果があったのは、じつは新聞紙。すごいよね、新聞紙。あの万能っぷりには頭が下がるよ。でも、アレを窓に張り付けていると、むちゃくちゃ辛気臭くなっちゃって乙女回路がダメージを受けるの」

 野菜を包めば長持ちし、食器の油汚れをさっとひと拭き、古い油を処理するのに役立ち、身にまとえば保温効果、窓を拭けばキレイになり、千切ってまけば掃き掃除がはかどる。湯舟に浮かべれば垢や毛がみるみる吸着、クツなどの防臭にも使え、引っ越しの際には荷造りに大活躍。読めば知識と情報が得られて、漢字に強くなる。折り紙にして遊べるし、火種としても重宝し、丸めて棒状にすればあの黒い悪魔をも一撃必殺!
 とにかく工夫次第で無限大の可能性を見せる存在。
 それが新聞紙。
 もちろん結露対策にも頼れる味方。
 だがその姿が乙女のお部屋にはちょっぴりそぐわないのが、ざんねん。

「英字新聞ならカッコいいのに、日本語のになるととたんに貧乏くさくなるのは、どうしてなんだろう」

 ぶつくさつぶやいているミヨちゃん。
 バケツにてじゃぶじゃぶした雑巾を、ギュギューッと絞りながらヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。

「そんな新聞なのに発行部数は百万単位で減少中」

 これからは電子の時代にて、紙なんてちっともエコじゃないよ。
 ニュースなんてテレビとネットで見ればいいじゃない。新聞とると高いし。
 なんぞという意見も多いけど、いろいろ使える新聞紙。もしもの時には
 とっても頼りになる。少なくともスマホではヤツを倒せない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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