ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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627 やみもうけ

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 マンモス団地の一角に住むチエミちゃん。
 団地にはいろんな住人がいる。それでも昔に比べたらおとなしくなったと両親たちは話すという。
 具体的な話を聞けば、チエミちゃんも納得。
 なにせ派手なイレズミの本職さんがそこそこ住んでいたり、ワイドショーのネタになりそうな騒音を立てる人もいれば、公園で子どもたちが遊んでいると包丁片手に現れて「うるせー!」と怒鳴ったり、酔っぱらっては他所の家に押し掛けたり、お風呂の水を溢れされて階下を水浸しにしたり、借金とりが押し寄せては「返せ」「ないモノは返せない」と開き直るおじいさんがいたり、団地でヤギを飼っている人とか(ペット不可)、団地でポニーを飼っている人とか(ペット不可)、毎朝ニワトリがコケコッコーと鳴いているところとか、年中窓も玄関も開けっ放しでカーテンもなしで裸でうろうろしている人とか、ぼーっとしている風に見えて実は……な人とか。
 かつて、団地に人がひしめき合っていた時代には、それはもうバリエーションに飛んでいたという。

「いまなら即アウトがゴロゴロしていたもんだよ」とチエミ父。
「よくも悪くも寛容な時代だったわねえ」とはチエミ母。

 しかし時代は変わった。
 法律とかせいで、彫りモノのあるおじさんは姿を消した。
 ベランダからやたらと叫んでいるおばさんも姿を消した。
 ペット不可は変わらずだけれども、せいぜいイヌ、ネコ、トリ、ハムスター、カメや熱帯魚などのおとなしいものばかりとなった。
 すっかりお行儀よくなったいまでは、夜中に洗濯機を回したり、トイレの水を流しただけで、団地の事業所にクレームの電話が入るほど。
 やたらと神経質で、粘着質で、まるで互いを監視し合っているかのような雰囲気すらも漂っており、少々息苦しさを覚える。
 住みよくなったのか、それとも住みづらくなったのか。

 そんな団地にて近頃、別の問題が持ち上がっているとチエミちゃん。

「独居老人が増えてるでしょう。それでアレが増えちゃってねえ」

 チエミちゃんがアレと言葉を濁したのは、事故物件のこと。
 事故、事件、自殺、病気、その他原因はいろいろ。
 団地が建造されてより半世紀以上も経てば、その分だけ人も入れ替わり、いろんなことがあって歴史も刻まれるので、一定の割合にてこの手のことが発生するのは当たり前。
 だからある意味、人が社会生活を営んでいれば起こる自然なこと。
 なのにこれを厭う風潮がどこか世間にはある。
 ぶっちゃけ事故物件は人気がない。人気がないからなかなか埋まらない。よしんば埋まっても居つかないことが多い。そして無責任なウワサが独り歩きして、ますます寄り付かなくなるという悪循環に陥りがち。

「誰も住んでいない部屋ってさぁ、夜とかに見かけるとそこだけぽっかり暗いんだよねえ。これが微妙に怖いんだぁ。用心も悪いし」とチエミちゃん。

 そんな話を休憩時間の教室でチエミちゃんから聞かされたミヨちゃん。

「誰も住んでいない空き部屋から音がするとか……、少女マンガのホラーの定番だよね。そして肝試しにいった子どもたちが、だいたい行方不明になっちゃうの」

 ただでさえ縁起が悪いと敬遠される事故物件が、異次元へと通じるワンダーゾーンと化したところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「海外では逆に付加価値がつくところもあるらしい」

 幽霊を不吉なモノとするか、縁起モノとするかはお国柄。
 凄惨な逸話やお化けを売りにしてる観光地とかも、わりと多い。
 いっそ金でもとって、宿泊でもさせればいいと思う。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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