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628 マメとマキ
しおりを挟む食品ロス問題が叫ばれるようにってしばらく経つ。
ゆっくりとだが社会から一掃すべく、いろんな試みが見られるように。
成果のほどはともかく、食べ物を大切にするのはいいこと!
で、改めてこの問題が取り上げられるたびに、映像としてやり玉に挙げられるのが節分のときの恵方巻き。
恵方巻き。
恵方とは福徳を司る歳徳神がいる方角のこと。そっちに向かって願をかけると、いいことあるかもね、というもの。
この願かけとして、太巻きをぐびぐびノンストップで一本平らげると、神さまが「よくできました」と褒めてくれる。ご褒美がもらえるかどうかは抽選にて。
食べる際には無言でとか、恵方巻きの具材は七福神にちなんで七種とか、細かいルールがいろいろあるらしいが、まぁ……。
「節分はムズカシイよね。二月三日だけの一発勝負だから」
いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校時のこと。
この話題を口にしたのはミヨちゃん。
「まぁ、うちは切って食べるけどね。あんなもの丸々とかゴウモンだよ」
ミヨちゃん宅には小学二年生の彼女のほかに、お年寄りのおばあちゃんがいる。
しんなりした太巻きのノリは噛み切りにくい。ただでさえゴツイところにそれが重なっては、ノドが詰まって昇天しちゃう。
お年寄りにとって、お餅と太巻きは鬼門なのだ。
「鬼が外どころか、我が家の食卓に地獄が出現しちゃうのはさすがに……。でも太巻きってアレでも昔は花形だったって、おばあちゃんが言ってた」
運動会や遠足などの特別な日のお弁当には、お母さん特製の太巻きがデデンと入っており、子どもたちが大喜びしていた時代が確かにあった。
だが経済的発展とともに、海外から美味しいものがいっぱい流入。ずんずんと食の多様化が加速されていき、寿司はご馳走の代名詞であるけれども、けっして庶民には手が届かない食べ物というわけでもなくなった。
やがて飽食の時代となり、子どもたちはマグロのトロやサーモンでははしゃぐのに、太巻きには見向きもしなくなる。
いろんな種類のお寿司が入った寿司桶をみんなで仲良くシェアすると、いつも最後に残るぐらいにまで地位が低下してしまった。
そんな太巻きが年に一度だけ、主人公となり輝くのが節分の日。
「だから食品ロスもわかるんだけど、あんまりイジメちゃかわいそうかなぁ。日常的にもっとムダにしている食材ってあるよね? 例えばコンビニのやつとか。どうにも責める相手がかたよってる気がする。これもソンタクってやつなのかなぁ」
恵方巻きの製造業者とコンビニの運営母体及び業界。
チカラの差は歴然にて、方々にて影響力を保有するのがどっちかなんて言わずもがな。
「ニュースやワイドショーなんかの報道関係が、それはダメだよねえ」とミヨちゃん。
スポンサーをおもんばかって忖度しているのが画面越しに透けて見えるのは、興ざめだよと幼女は手厳しい。
「ダメといえば、保育園の話を聞いた? ついにヤメちゃったらしいよ。マメまきそのものを」
市内にある某保育園。
節分になれば鬼の面を作ったり、豆まきをしたりして、時事イベントを楽しんできた。
でもいつの頃からか「鬼さんがかわいそうだよ」とかいう、歪んだ優しさの押し売り思想が蔓延。挙句についには「マメがもったいない」なんぞという考えまで言い出す親御さんがあらわれる。
食べ物の大切さを教えないといけないのに、粗末にするかのような行為は教育によくないとか真顔でほざく。
常日頃、汚物を垂れ流し、散々に環境をむさぼって生きているくせに、マメの数粒を惜しむ。
ケチと節約をはき違えるがごとき、かんちがい。
かくして連綿と受け継がれてきた習慣がまた一つ、失われてゆくのか。
「やれやれ、じつに嘆かわしいことだよ」
ミヨちゃんがしみじみそうもらしたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「大丈夫、そのうちイヤでも地位は復権する。なぜなら……」
太巻きには欠かせない海苔が不作。なんでも年々、海がキレイに
なりすぎているのが原因なんだとか。水清ければ魚住まずってね。
土台、人ごときが母なる海の環境をどうこうとか、何様なのかも。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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