ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

713 ようじ

　
　食事が終わったあとに、つまようじでシーシー。
　すぐに歯をみがくようにと、物心ついた頃より言われ続けて早や幾星霜。
　すくすく小学二年生になったミヨちゃん。
　週末、家で昼食をすませた後のこと。
　お父さんがつまようじでシーシーしていた。
　わりと見慣れた光景にて、おばあちゃんやお母さんがやるときみたいに、手で口元を隠して上品につかうのとはちがう、モロ出しスタイルでも特に気にはならない。
　おっさんのシーシー文化を「気持ち悪い」と嫌悪している女性陣も世には多いと聞くが、いまだ思春期にはほど遠いミヨちゃんは、「へー」といった感じ。
　で、近頃では長兄と次兄もたまにシーシーしているから、いっそう気にならない。

　男どもが食後につまようじをつかう姿が、日常と化しつつあったある日のこと。
　いつものようにシーシーしていたお父さんが、「うん？」と首をかしげた。
　みれば手元のつまようじが半ばにてぽっきりぺっきり。
　細い木で作られた品だし、そんなこともときにはあるだろう。
　むしろ鉄とかで折れないつまようじなんて、針とかわらないからなんだかおっかないし。
　うっかり口の中をチクリとしたら、たいへん！
　だからお父さんも特に気にした様子もなく、折れたのをゴミ箱に投げ入れ、新しいのに手を伸ばすだけであった。
　が、これ以降。
　似たような光景をちょくちょく目撃するようになったミヨちゃん。
　男性陣は特に気にせず「そんなもの」「しょせんは使い捨て」といった感じで、食後にシーシーを続けているも、ポキポキやたらと折れるつまようじの姿にミヨちゃんは首をかしげる。

「あれ？　なんだかやたらとモロくない」

　このことを母に指摘してみたら、お母さんは「うーん。やっぱりか」とうなづいた。
　つまようじを調達したり、ゴミの始末なんかをする機会が多い立場ゆえに、薄々異変に気がついていたという。
　そこでミヨちゃんは食卓にのっているようじ入れから、一本を拝借してイジってみた。
　するとグニグニとたわむつまようじ。
　やわらかいといえば聞こえがいいけれども、どうにも頼りない。
　先っぽの尖がっているところも、いまいち強度不足にて、指先でうりうりしているだけで、なんだか丸まってしまう。

「ハグキをキズつけない、やさしいしようとか」

　ミヨちゃんがそう言うも、お母さんは首をふりふり。

「たぶんちがうわ。やっぱり安いのはダメね」

　通常価格の半額程度だったので、「これはお得だわ！」と喰いついたミヨちゃんのお母さん。しかし値段相応にとんだ粗悪品であったらしい。

「たかが百円。されど百円か……」

　おおいに反省する母。
　どうやらスーパーの百円雑貨コーナーで、二パックセットで見つけてきた品らしい。

　後日。
　ヒニクちゃん相手に受話器越しに「……なんてことがあったんだよ」と語ったミヨちゃん。
　ついでに「最近、ドラマが再放送ばっかりだよ」とぼやく。
　これを受けてずっと聞き役に徹していたヒニクちゃんがおもむろに口をひらいた。

「百均は見極めが大事」

　お値段以上の満足を与えてくれる品もあれば、
　お値段以上にガッカリさせられる品もある。
　けれどもときにバケモノ級の品が爆誕するから、
　百円均一はあなどれない。あと店内がなんかたのしい。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。