ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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714 そんなもん

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 パチンコ屋が閉まっている。
 おかげでいつもはきらびやかで騒がしい表が火が消えたよう。
 商店街の本屋が閉まっている。
 シャッターがぴしゃりと閉じられているけれども、このお店は老店主の気まぐれでちょくちょく休むから、あまり珍しくはない。
 酒屋兼立ち飲み居酒屋が閉まっている。
 朝から晩まで酔漢どもが群れ集う場所が静まり返っており、表に置きっぱなしにされた縁台にてノラネコが日向ぼっこをして、にゃあと大あくび。
 床屋はやっていたけれども、張り紙がしており完全予約制になっていた。
 畳屋からは、ガシャコンと機械が動いている音がする。
 案外注文が多いらしく、いつも以上に忙しいっぽい。
 衣料品店も開いているが、こちらは閑散としており、お客の姿は皆無。軒先に飾られた南国チックな模様の大きな招き猫が虚しくポツン。でもここはいつもこんな感じで閑古鳥が鳴いている。きっとあの怪しいネコの置物のせいだよと、子どもらの間ではもっぱらの評判。

 街並みはかわらない。
 世界は何もかわらない。
 スズメはちゅんちゅん鳴いているし、カラスもカァカァ鳴いている。ネコもときおりぎゃあぎゃあ賑やか。
 風が吹けば、街路樹の枝葉が揺れて、どこぞより花びらが舞い飛ぶ。
 空を見上げれば、以前よりもちょっぴり鮮明になった青空。

「そういえば、しばらく飛行機雲を見ていないねえ」とミヨちゃん。

 隣にていっしょに空を見上げていたヒニクちゃんもコクリとうなづく。
 飛行機もほとんどが飛んでいない。空港もほとんど開店休業中。
 たまにバリバリうるさいのは報道のヘリか?
 ふと、遠くに聞こえたのはサイレンの音。
 どこぞで火事でも起こったのか、消防車がウーウー現場に向かっている。
 一台きりではなくて、いくつも重なるサイレン音。

「音は遠いけど、どこかな?」

 ミヨちゃんにたずねられるも、わからないヒニクちゃんはコテンと首をかしげるばかり。
 火事は困るけれども、これもまた日常といえば日常の風景。
 たいへんなことだけれども、珍しいわけではない。
 そういった意味では、これもまたかわらないことの一つ。
 テレビをつければ賢い大人たちは口をそろえて「これから世界はかわる。我々もかわらなければならない」と言う。
 そりゃあ、夏には夏の服装になり、冬には冬の格好になるように、環境の変化にあわせて己の生活スタイルを変えるのは当たり前のこと。
 だから言ってる意味はよくわかるし、「そうだね」と納得もする。
 そして大人たちが何度もムキになって言うぐらいなんだから、きっとこののち、いろんなことがかわってゆくのだろう。
 小学二年生の身として出来るのは、それを唯々諾々と受け入れることだけ。
 そりゃあ、はじめのうちは変化にとまどって不平不満をこぼしちゃうかもしれない。けれども、じきに慣れる。そしてそれが日常になる。当たり前になる。
 なんとなーく、ゆるやかに、まったり、ねっとり、のんべんだらり。
 気づいたときには、どっぷり染まっている。

「まぁ、ブーブー言ったところで、世の中そんなもんだよね?」

 ニパッと笑ったひょうしに、かわいい八重歯がチラッとのぞいたミヨちゃん。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「そんなもん」

 公私において「えらいこっちゃ!」と大騒ぎする場面は多々ある。
 けれどもよくよく考えてみると「アレ?」となることもまた多し。
 いまこそ心の断捨離を。余計な不安やストレスまで後生大事に、
 抱え込むことはないよね。どのみち、なるようにしかならん。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。



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