ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

762 おや？

　
　いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校時のこと。
　風に飛んできたのはスポーツ新聞。
　一面を飾っていたのは、芸能人のスキャンダル記事。
　だれもが羨むような相手と結婚し、仕事もプライベートも順風満帆。
　着々とキャリアを積み重ね、テレビで見ない日はないというほどの売れっ子。
　能力も高く評価されており、好感度も高い。
　だからコマーシャルやコメンテーターなど多方面にて大活躍。
　が、それが一夜にして凋落する。
　昨今では芸能人のスキャンダルに、世間の目がとっても厳しい。
　昔の大御所たちがやっていたような乱行なんてしようものならば、即座に干されてしまう。

「どうしてあんなにキレイな奥さんがいるのに、外で女遊びをしちゃうのかなぁ」

　理解に苦しむと首をふるミヨちゃん。
　世間の大半の人がふしぎがること。
　もっとも、それはあくまで外からしか見えない他人の意見。
　どれほど美人で、どれほどスタイルがよくて、どれほど料理上手で、どれほど好感度が高くイメージのいい女性だとしても、家の中でもそうだとは限らない。
　誰にだって表と裏がある。
　愛想のいい人だって、機嫌の悪いときがある。
　明るい人だって、黙る瞬間はある。
　面白い人だって、つまらなくなることもある。
　ずっといっしょにいる。同じ人生を歩むということは、相手の清濁を呑み込む度量がなければ、とても続けられることではない。
　けれども、うっかり相手の知らない一面を知ってしまったとき。
　幻滅するか、理解を深めるか、気を許してくれていると惚れなおすか……。

「キレイな奥さんがいるのに浮気をするのか、キレイな奥さんがいるような人だからこそ浮気をするのか、うーん」

　にわとりが先か、たまごが先か。
　キレイな奥さんを得られるぐらいの殿方ゆえに、結婚後も異性から大人気。むしろ魅力が増しちゃう。
　そこでキッパリ「いえ、自分には愛すべき妻がいますので」と言ってくれるのが理想だけれども、悲しいことに世の男性の中には「据え膳喰わぬは男の恥」とか「女に恥を欠かすのは男のすることじゃない」なんていう考えも蔓延している。
　また、あえて女優さんやモデルさんの奥さんをもらった男のところにちょっかいをかける性悪猫もいる。「あれほどの女をモノにしたんだから、どれどれ」と興味を惹かれて味見をしちゃう女狩人たちが。

「……っていうか、奥さんが妊娠中とか子育てでいそがしい時に、つい。ってパターンが多いよね。やっぱり興味が自分より子どもに向かうのが寂しいのかなぁ」

　魅力的な人間は、魅力的であるがゆえに、つねに周囲から注目を集める。そんな環境にどっぷりつかって生きてきたというのに、ある日、突然にもっとも身近な相手からの興味が薄れてしまう。それが当人にとっては想像以上のダメージ？
　なんぞと道を踏み外した男性側の視点にもたって考えてみるミヨちゃん。
　赤ちゃんができたら、生活の中心はどうしたってそこになる。
　夫婦の関係が激変する。家庭や家族の在り方なんて言わずもがな。
　夫も協力して子育てに邁進するのが理想だけれども。
　そもそもの話、洗濯物すら満足にたためない男に赤ん坊を託せるのであろうか？
　といった疑問もちらほら。

「理想と現実はほど遠いよね。この分だとイクメンを売りにしている連中の中にも、ごろごろ偽装がありそうだよ」

　ミヨちゃんが男の育児についての不安と不満を口にしたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「夫になるのと父になるのは、まるで別もの」

　よき夫が必ずしもよき父親になれるわけじゃない。
　己が血肉を分け与え、腹を痛めた女性ですらもが
　ときにしくじる。残念ながら人間向き不向きはある。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。