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761 すたり

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 流行り廃りは世のつね。
 春先にあれほどみんなが夢中になったアレが、年の瀬になるて「あー、そういえばあんなのもあったよね」とすっかり落ち目になっていることなんて、よくあること。
 そして今日もどこかで何かがはじけている。

 近頃、ミヨちゃんの教室にて流行しているのが汗ふきシート。
 きっかけはクラスのオシャレ番長のアイちゃんだった。
 けっこう汗をかいてしまい、せっかくの服が台無しになってしまいそう。
 これを嫌ったアイちゃんがポーチから取り出したのが汗ふきシート。
 使い捨ての品にて、サッとカラダをふけば、ほんのりライムの香りと清涼感に包まれる。
 手慣れた様子にて、首筋や腕なんかをふいて、さっぱりしたアイちゃん。「ふぅ」
 ひと息ついたところで、隣をみれば首からタオルをさげたリョウコちゃんの姿。
 サッカー少女は、とにかくよく動くものだから汗とは切ってもきれない間柄。だからたいていの場合はこのような格好をしている。
 それはとても健康的にて、素敵なことだけれども、乙女としてはちと配慮が足りぬと考えたアイちゃんが、リョウコちゃんにも一枚差し出した。
 で、言われるままに試してみたら「おーっ! これはいいねえ」とリョウコちゃんがよろこんだものだから、他の子たちも興味を示す。
 そこから先は水面の波紋のごとく、またたく間に話題が伝播。
 みんな汗ふきシートの素晴らしさに深く感じ入った。「こいつはいいものだぁ」と。

 以来、みんなお小遣いで買い求めたり、お母さんにねだったり。
 ミヨちゃんのクラスの女子の間にて、空前の汗ふきシートブームが巻き起こる。
 ひと口に汗ふきシートといっても、いろんな香りや効果が楽しめるものが多々。
 そしてスーパーや百円均一とかでも販売されているので、安価ゆえに、幼女たちはこぞって目新しい品を探し求めるようになる。
 なぜなら誰も知らない品を手にすれば、それだけでみんなから垂涎の的にて羨望のまなざしを受けるからである。
 ニオイ消しゴムとか、カラフルなペンとか、メモ帳とか、ちょっとした小物などで盛り上げるのが女子。
 金額もしれているので、ヨーコ先生もあまり固いことは言わない。
 放っておいてもじきに勝手に冷めるとの判断であった。
 だが、今年の夏は暑かった。
 まだまだ序の口にもかかわらず、猛暑ばり。
 汗もじゃんじゃんでるから、汗ふきシートもじゃんじゃん使う。
 すると教室のゴミ箱がけっこうシートだらけとなる。
 そしてそのシートたちにはほんのりニオイがついているから、様々なニオイが混ざり合って、複雑怪奇な刺激臭に……。
 あと、スーッとする成分とかも含まれているから、なんとなく目もしばしばしてくる。
 で、「へっくしょい」とヨーコ先生がおっさんっぽいくしゃみを授業中に連発して、ついにブームに終止符が打たれることになった。
 この一連の流行を黙って見続けていたヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。

「制汗だけに静観、ぷぷぷ」

 制汗グッズ、スプレータイプは気軽に使えるけど、
 スプレー缶のゴミがでる。のりスティックタイプはもちがいいけど、
 じかに触れるから共用は無理。他にもいろいろあるけれど。
 これだけニオイに神経質なのは、国民性らしい。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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