ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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767 はつせり

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 年始一発目のマグロのせりには、大金が飛び交う。
 縁起物だからと大盤振る舞い。
 それが話題になり、宣伝になるからと、どーんとつぎ込む名物のような人物がいれば、そこに「ちょっと待った」と挑戦する者なんかもあらわれて、せりはヒートアップ。
 金額がずんずんつり上がって、とんでもないことに!
 いわゆる初せりでのご祝儀相場。
 他にも季節モノや果物なんかでも同様なことがみられる。
 それをテレビのニュースで見るたびに、ミヨちゃんは思うわけだ。

「味はかわらないのに」と。

 本来の品質などではなくて、縁起物という根拠のない点をありがたがる。
 そりゃあ、少しぐらいならばかまわないと思う。
 初詣や夏祭りの屋台の食べ物と、ふだん商店街で買う食べ物との差額ぐらいならば、「お正月だし」「お祭りだから」と目もつむれるが、アレはあまりにも破格が過ぎる。

「知ってる? このまえスイカの初せりがあったんだけど、なんと一玉十万円なんだって! どれだけ甘かろうともスイカだよ? 種がいっぱいでびみょうに食べづらいあのスイカだよ。おいしいけれども、手や口がべちゃべちゃになるスイカだよ。けっこうゴミのかたずけがめんどうなスイカだよ。それがこれぐらいの大きさで十万円……」

 胸の前で両手を広げて、大きさをあらわし、悲鳴をあげるミヨちゃん。
 いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校中のことである。
 ヒニクちゃんが「へー」といった顔をしていると、さらにミヨちゃんは言った。

「しかもだよ。今年はいろいろ世間がアレで不景気だったから十万円だけれども、去年はなんと七十万円! バブリーにもほどがあるよ! こうなると二番目に競り落とされた子があまりにもふびんすぎるよ、みじめだよ」

 一番目は特製の桐の箱におさめられて、メディアの注目を集めて、晴れがましい舞台に立つ。
 けれども、その次にせり落とされた品は、いつも通りにひっそり淡々と出荷される。
 少女マンガや二時間サスペンスならば、妬みから陰惨な殺人事件へと発展してもおかしくないほどの待遇の差。

「まえにえらい政治家の人が『二番じゃだめなの?』みたいなことを言ってたけれども、やっぱり二番じゃダメなんだよ。栄光は一番じゃないと浴びられないんだよ」

 マグロ、カニ、リンゴ、メロン……。
 いったいどれほどの品たちが二番手に涙をのんだことか。
 ちなみにマグロの場合、漁師の取り分は九割。
 一番手がごっそり福を持っていき、二番手以降を奈落のどん底へ突き落すような所業。
 それで縁起物?
 むしろ恨みつらみが凝り固まったヤバい品なのでは?
 とのミヨちゃんの主張を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「ご祝儀相場、もとは賭場から発生したらしい」

 賭場の胴元がふだんよりもちょっぴりサービス。
 支払いのレートを上乗せしたことが起源らしい。
 それが今や株式や市場でおなじみの光景に。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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