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768 あまど
しおりを挟むミヨちゃんは少女マンガが大好き。
メインはラブコメ系だが、ホラー系も読む。
けれども少女マンガのホラーは、基本的バッドエンドが多い。
一難去ってまた一難。
それを意中の彼とどうにかくぐり抜けたヒロイン。
ホッとしたのも束の間、あっ!
といったパターンのラスト。いわゆる十三日の金曜日スタイル。
まぁ、ホラーは恐怖心をあおってなんぼのジャンルゆえに、読後に爽やかな印象は必要ない。よりドキドキと読者をさせてビビらせる必要がある。
だからこそ、たいていのホラー作品は悲惨な結末を辿る。
ヒロインが助かってよかったね。では、せっかく作中にてつのらせた恐怖心が霧散してしまうから。
だから読むときには注意が必要。
うっかり家にひとりでいるときとか、夜の寝る前とかはご法度。
なのについつい読んでしまったミヨちゃん。しまったと思ったときには、すでに手遅れ。
かくして、お風呂でやたらと背後を気にしては、おびえつつシャンプーをし、湯舟につかっているときに天井から落ちてきた雫に「ひゃあ」と小さな悲鳴をあげ、ベッドに入るときには部屋の電気を暗くするのをちゅうちょした。
小さい橙色の明かりを点けたままで寝ようかとも考えたが、あいにくとミヨちゃんは部屋を真っ暗にしないと眠れないタイプ。
明日も学校がある以上はしようがないので、電気を消すのと同時に、急いで布団にもぐり込む。
ビクビクしつつも、やがて睡魔に襲われて、うとうとし始めたときのこと。
カタカタカタと音がする。
風で雨戸が揺れているのかと思って、気にしていなかったのだけれども、音がいっこうに止まない。むしろ大きくなる。
カタカタ、ガタガタ、ときおりバリバリ。
ちょっと尋常ではない音にて、恐怖に耐えかねたミヨちゃん。布団から飛び起きて、すぐさま部屋の電気をつけた。
で、ちかくにあった冊子を丸めて棒にし、「しゅわっ」と迎撃のかまえ。
いかにホラーマンガを読んだからって、イコール幽霊なんて安直に考えない。
真っ先に疑ったのは、ブラックウィング、Gの戦慄。
聴覚に意識を集中し、音の元をたどる。
けれどもどうやら室内ではないらしい。
窓へと近づきつつ、カーテンをシャーッ。
すりガラスの向こうには、雨戸の無機質な裏面がうっすらと浮かんでいる。
そっちの方からバリバリ音が……。
たまに雨どいとか、軒下に鳥が羽を休めていることがあり、その時の音に似ていなくもない。
だからまたぞろそうなのかと思ったけれども、それにしてはあまりにも音がやかましい。
で、このままだとうるさくて眠れないから、雨戸をあけて追っ払おうと考えたミヨちゃん。窓を開けようとしたところで、その動きがピタリととまった。
すりガラスの向こうに何かがいる!
Gやカブトムシにしては大きい。フォルムからしてヤモリやヘビでもない。
もしやネズミか? と警戒するも大きさは似ているが、ちょっとちがうっぽい。
で、部屋に備え付けられてある懐中電灯を取りだして、よくよく見てみたら……。
「なんと小鳥だったんだよ。でも、どこからまぎれ込んだんだろうねえ」
その日の夕方近く、ちょっと天気が崩れた。
あわてて雨戸を閉めたミヨちゃん。どうやらそのときにいっしょに閉じ込めてしまったらしい。
でもって逃げ場のない小鳥は、窓と雨戸の隙間でバタバタ暴れていたと。
ふだんは捕まえようと思っても、あのハトポッポですらもがまずムリだというのに。
奇妙なこともあるものだとミヨちゃんが小首をかしげたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「どこの世界にもどんくさいのはいる」
こっちからあっちへ飛び移ろうとジャンプしたネコ。
ぶざまに失敗して、てへへ。何かに首を突っ込んだイヌ。
抜けなくなって困り顔。あとアイスをぽとりと落としたとき、
小さな子もこの世の終わりみたいな顔をするよね。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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