ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

779 ざん

　
　いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校途中。
　ミヨちゃんたちが立ち寄ったのはとある工事現場。
　街中の工事現場でたまにみかける、おっきくて背の高いクレーン車。
　それを見たとき、誰もが一度はこう考えたことがあるはず。

「倒れないかな？　だいじょうぶかな？」

　もちろん大木の根のごとく、ガッチリと土台を踏ん張って倒れないような仕組みになっているから、安心安全。
　でも、人があつかう機械であり、人がかかわることである以上は、絶対はない。
　ごくごく稀にだが不測の事態にて事故は起きてしまう。
　で、それが起きてしまった。
　土台部分の設置にミスがあったらしい。
　マンションの建設予定地に派遣されていたクレーン車が、ぐらりと倒れる。
　長いカラダがゆっくりと傾いでいき、道路をまたぎ、向かい側にあった家を直撃！
　電線がバチバチ火花を散らし、千切れて付近に停電が発生。
　瓦屋根が粉砕して、ざっくり割れた。
　それでも止まらないクレーン車は、それこそ首でも刈るかのような勢いにて、二階建て住居を「斬っ！」と一刀両断。
　ようやく止まったのは派手な地響きを立て、盛大な土煙をぼふんと巻きあげてから。

　けっこうな騒ぎとなり、全国区のニュースにまで取りあげられ、取材のヘリコプターもぶんぶん飛ぶほど。
　でもこれだけの事故だというのに、死傷者が一人もでなかった。
　時間がお昼過ぎということもあって、家人たちは全員留守。
　いちばん閑散としている時間帯ということもあってか、道路に自動車の姿もなく、陽射しがきつくじめじめ暑いこともあって歩行者もなし。
　はっきりいってたまたま。幸運以外のなにものでもない。

　テレビのニュースで映像がばんばん流れて、これを目にしたミヨちゃん。おもいのほかに事故現場が近いと知って、ちょいと野次馬を敢行。
　とはいえすでに数日またいでおり、クレーン車はとっくに撤去されていた。電柱も早々に修繕されている。
　名残りといえば半壊した家ばかり。
　ガードマンによる規制が張られていたけれども、外からでも十分わかるほどの壊されっぷりに、「うわぁ」とミヨちゃんはおどろきの声をあげた。

「高層ビルのクレーンもそうなんだけど、やっぱりこわいよねえ」

　固い鉄の塊みたいな構造ゆえに、倒れたり落ちたら、それだけで破壊兵器となりかねない。
　ちょいちょい見かけるソレが、じつはかなりの脅威だと認識して、ミヨちゃんはブルルと肩をふるわした。
　そしてそう考えて自分たちが住む街をあらためて見渡してみると、けっこうな危険地帯であることもわかり、「これがコンクリートジャングル」とつぶやく。
　するといっしょになって半壊した家屋を眺めえていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。

「それでも人は空を目指す」

　世界有数の地震大国。それゆえに対策技術も発展し、
　今では自信大国でもある。でもね。人間の想定なんて、
　軽々と超えて来るのが自然の脅威。そもそもの話なんだけど。
　来るのが分かっているのに、どうして高い建物を造るの？
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。