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780 わらび

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 最近のヨーグルトのフタはよくできている。
 ぺろんとめくると裏についていた中身が、トロっと自然にはがれ落ちて、キレイになる。
 けれどもカップのアイスクリームはそうはいかない。
 だから、ペロリと舐める。
 お行儀が悪いけれども、家ならば問題ない。
 そしてミヨちゃんはまだ小学二年生の幼女なので、子ども特権にて人前でも許される。

「わたしも舐める」とはリョウコちゃん。スポーツ少女はワイルドにいくらしい。
「わたしも舐めるね」とはチエミちゃん。偉大なる凡は「むしろあれこそがカップアイスの醍醐味」と力説する。
「うーん。わたしはスプーンですくうかなぁ」とはアイちゃん。オシャレ番長は食べ方も乙女チックにスマート。

 まぁ、手段や考えはいろいろだけれども、総じてムダにはしないという意見で一致をみたところで、「ここからが本題だ」とミヨちゃんが提示したのは、ある夏の和菓子について。

「スーパーとかで売ってるわらびもちってあるじゃない? あれってどうやって食べてる?」

 ワンパック百円前後の価格帯にて、透明なノーマルタイプと抹茶入りと称する緑のタイプがある。
 味はどちらもかわらない。
 そもそもの話、この値段で抹茶を感じられるほどだったら、とても商売にならないだろう。
 パックの容器にはわらびもちが入っている場所と、その隣に付属のきな粉を入れる箇所がある。
 ふつうはそちらにきな粉を入れて、ちょんちょんとつけて食べる。
 けれども豪快な人ならば、直接、わらびもちにふりかけてムシャムシャ食べる。
 ミヨちゃんは後者。
 そしてアンケートをとったところ、アイちゃん以外もそちらであった。
 理由は、めんどうくさいから。
 しかし食べ方についてはどちらでもかまわない。
 むしろ本番はわらびもちを平らげたあと。

「けっこうきな粉って残るよね? それをどうしているのかを知りたいの。ちなみにわたしはべろべろ舐める」

 家で自分でこしらえるとのはちがって、絶妙な甘味に調整されたきな粉。
 あくまで付属品にて市販されていないから、あのパックのわらびもちを食べるときにしか味わえない。
 けれども粉状ゆえにアイスクリームやヨーグルトのように、スプーンですくうのはちょっとムズカシイ。うっかりすると跳ねて、バサーッとなって「あーっ!」となりかねない。
 そんな危険を回避するためにも、自分の舌でべろべろするのが、もっとも安全かつ効率がいい。

「舐めるというか、舌を押し付けてくっつける? みたいな感じでジョリジョリこそげ落とすんだよ」

 具体的な方法を披露したミヨちゃん。
 これにはリョウコちゃん、チエミちゃん、アイちゃんも、「アレかぁ」と思案顔となる。

「濡れるとヘンなペースト状になるんだよなぁ」とリョウコちゃん。
「そうそう。そうなると張り付いてとりにくいんだよねえ」とはチエミちゃん。
「わたしは極力残らないように食べてるから」とはアイちゃん。「カレーとかだと、ルーとライスの量を計算しながら食べるでしょう? あれと同じよ」

 アイちゃんの意見には幼女たちも「なるほど」と納得するも、それでも微妙に残るのがきな粉。

「おそらくメーカーさんが、ちょっと多めにサービスしてくれてるんだと思うの。でもそのやさしさがわたしを惑わせるの」

 ミヨちゃんが「これはムズカシイ問題」と首をひねったところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「きな粉は奈良時代からあったらしい」

 もとはクスリとして食べられていたとか。
 江戸時代になると和菓子作りも盛んとなって、
 庶民の口にも届くように。脚気にもいいらしいわよ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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