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789 みんみん

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 昔ながらのソバ殻入り、綿、ビーズ、低反発……。
 近年、不眠で悩む人が急増しており、これを解消しようと次々に考案されては、発売されるのが枕たち。
 素材にこだわり、固さにこだわり、形状にこだわり。
 ときには科学的アプローチすらも。
 だがしかし、問題解決には至っていないのが実情。
 短期的には効果があったという人がいるも、万人が納得することもなく。また長期的にはやはり元の木阿弥となる。
 まぁ、だからこそ次々と販売される安眠グッズやら考案される安眠法なんかが流行するわけだが……。

 よく聞くのが歳を経るごとに、あまりよく眠れなくなるという話。
 ミヨちゃんの家にはおばあちゃんがいる。
 年寄りは夜は早くて、朝も早いと言われているが、それは本当。
 というか当人は「もっと眠りたい」とおもっているのに、肝心のカラダがいうことをきいてくれない。
 どうやらぐっすり長時間寝るのにも体力がいるらしい。
 そして年代的にはお母さんやお父さんも、あんまり熟睡できていない。
 これまた眠りたいのに、昂った神経やら、抱えたストレスなんかで自律神経がおかしくなっており、うまいこといかない。
 質のよい睡眠をとれないから、疲れもちっともとれやしない。
 銀行の利息とは比較にならない、高利にてずんずん疲労が溜まっていく一方。
 そこから先は悪循環に陥るばかり。

 対してまだ若い大学院生や高校生、小学生であるヤマダ家の子どもたちは、お気楽ご気楽にていつでも快眠。すぴーっとぐっすり。
 大人と子どもの間にある睡眠という名の深い谷。
 これをどうにか解消しようと、大人たちは財力にモノをいわせて、枕を買いあさる。
 新しい品が販売されるたびに、ついつい手がのばしてしまうほどに、悩んでいる。
 で、「うーん、イマイチ自分には合わないかも」となって、お蔵入りならぬ押し入れ行きとなる。
 それらを押し入れの奥から発見したミヨちゃん。「どれ」と自分も試してみることに。
 その結果……。

「ぬいぐるみを抱いているのが一番おちつくよ」

 ちょうど胸の中に納まる大きさで、もちもちの感触、タオルケット地の肌触りにて、ボタンとか固いパーツがないのが最適。
 いろいろ試したミヨちゃんは、「ペンギンかクマさんあたりがオススメ」そう結論を下した。

「いい枕もそれなりにはよかったんだけど、みょうに意識しちゃって。かえって肩がこっちゃった」

 寝心地うんぬんより、枕が気になるあまり、リラックスできない。
 枕に固執するあまり、寝返りも気楽にうてない。
 そして朝、目覚めると寝ぐせで頭がぼうぼう、首回りもガチガチ。

「あっ、でもおばあちゃんとお母さんの枕はいいニオイがして、なんだか落ちつく」

 ミヨちゃんが睡眠にはニオイも大事だと気づいたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「快眠は陽炎、諸説紛々」

 むきになって追うほどに、手に入らないもの。
 それが快適な睡眠。意識するほどに眠れなくなる。
 人類が快眠を手に入れるよりも先に、永眠しちゃいそう。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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