ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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790 き

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「そこだ」「惜しい」「あと、ちょっと」「あー」

 校庭の隅っこでたむろしていた男子たちが、なにやら騒がしい。
 かとおもったら、落胆の声が聞こえてきた。

「なにごと?」

 鉄棒で逆上がりの練習をしていたミヨちゃんが、その手を止めて顔を向ける。
 するととなりで上級生用の背の高い鉄棒で、くるくる回っていたリョウコちゃんが動きをやめて、鉄棒の上から言った。

「たぶんボールの木の相手をしてるんだろう」

 ボールの木。
 というのは子どもたちが勝手にそう呼んでいる木。
 太く高く、立派な枝葉を持った貫禄のある木にて、小学校が創業以来、そこに居る。
 で、校庭の隅なのだけれども、絶妙にボールが飛び込む位置にあり、ちょいちょい飛んできたボールを、その豊かな枝葉にてくわえこんでしまう。
 ゆえに、いつの頃からかそう呼ばれるようになった。
 廊下の電灯を交換するのに用いる脚立程度では届かない。
 さりとて園芸用の大きなモノだと、立てかけられる場所がない。
 のぼろうにも下の方の枝葉は落としてあるから足場がない。これは子どもたちがイタズラしないようにとの予防措置。ずっと昔にのぼったはいいが降りられなくなった子がいて、けっこうな騒ぎになったんだとか。
 そんな事情にて、いまでは年に二度ばかりある消防訓練のおりに、訪問するハシゴ車のチカラをかりて、ボールを救出するのが恒例行事になっている。
 けれどもそれを待ってはいられないと、ときおり挑戦者があらわれるのだ。
 かといって石などを投げつけるのなんてもってのほか!
 だからボールをぶつけてボールを落とすというリスキーな方法をとる。
 ちなみに前回の救出作戦で助け出されたボールの数は、二十九個にもおよぶ。

「で、ミイラとりがミイラになったのか。ナムナム」

 ミヨちゃんは敗れし者たちに手を合わせる。
 その視線の先では、あきらめきれない子どもたちが大木の幹に蹴りを入れたりしているけれども、そんなものでは大木はビクともしない。
 それどころかお返しだといわんばかりに、上から枯れ葉か小枝、あるいはゲジゲジ毛虫なんぞを落としてくるから、おっかない。

「そういえば体育館の屋根裏とかも、バレーボールとかがいっぱいハマってるよね? なんでだろう」

 なぜそこにボールはハマるのか。しかも一個じゃなくていくつも。
 このおおいなる難問を前にして、うーんと考え込んでしまったミヨちゃん。
 すると隣の鉄棒で足かけ回りの練習をしていたヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。

「バミューダトライアングル」

 ただし異次元への入り口とかいう話ではない。
 事故多発地帯には事故を誘発する原因があるということ。
 とにもかくにもボールでボールを救出する行為は、
 二次被害を引き起こす可能性が高いので推奨しない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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