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807 のぞみ

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 タイムスリップを題材にした小説やマンガやアニメは数知れず。
 古くはSF小説から端を発した「時間」を題材にしたジャンル。
 たいていが過去に戻ってやりなおし。
 ときたま未来に行くケースもあるが、これは稀。
 自分の冴えないご先祖様をどうにかして、現状を打破しようとしたり。
 未来を危険にさらす研究を止めるために、過去に戻って暗躍したり。
 歴史上の偉人たちと交流したり。
 よかれと行動したら、歴史そのものを歪めてしまったり。
 滅びる種族を救うために奮闘したり。
 たんに自分の後悔を解消するために、がんばったり。
 好きだったあの子を、死なせないためにあがいてみたり。

 ……といった具合にて、なんだかんだで人気がある。
 その根底には、「みななんらかの後悔を秘めているから」なのであろう。

「あのときこうしていれば」とか「もしもあの人と別れなかったら」とか「もっと勇気をだしていたら」などなど、誰しも一度ぐらいは考えたことがあったはず。
 大人なんてたいていが「あーあ、学生の頃にもっとちゃんと勉強しておけばよかった」と考えているもの。
 それどころか「戻れるものならば戻りてえ」ぐらいは内心で叫んでいたりもする。

 でもって、近頃、またぞろ隆盛なのが異世界転移や転生なんかのお話。
 これもまた根底にある想いはタイムスリップものと同じなのであろう。
 ちっとも望み通りにならない現実。
 当人がしっかりがんばった結果かどうかは、とりあえず脇へと置いておき。
 とにもかくにも日々募っていくのは不平不満。
 それがストレスとなって、精神と肉体を蝕む。
 とかく現代人はお疲れ。
 だからなのか、ノンストレスのご都合主義満載の異世界ファンタジーがもてはやされる傾向が年々、高まっている。

 流行なんてその時々だし、大衆が求めているモノを提供するのが商売だから、これもまた資本主義の自然な流れ。
 とはいえ、あまりにも偏重する世の中の流れを受けて、ちょっぴり不安を感じていたのがミヨちゃん。

「だって、それだけ世の中が、みんなが、大人も子どももつかれちゃってるってことでしょう? これってけっこうマズくない?」

 どうやって流行が発生するのかは、よくわからない。
 意図的に操作されて発生するケースもあるが、その手のモノって存外たいしたことがなくて、あっという間に廃れちゃう。
 けれども、流行するからにはそれなりに理由があるわけで……。
 ミヨちゃんが漠然と感じている危惧を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「娯楽で満足しているうちは、かわいいもの」

 状況を理解せずに声高に権利を主張しては、集団を危険にさらす。
 自己主張が正義であり自由であると、かんちがいしている。
 無闇と同調しすぎるのも問題だけど、阿呆は困る。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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