ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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808 いろ

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 ミヨちゃんとヒニクちゃんが河原にいくと、堤防のところの階段で見知らぬおっさんがひとり黄昏ていた。
 会社が倒産しちゃったとか、仕事をクビになっちゃった。
 みたいに尾羽打ち枯らすといった風ではなくて、たんに悩んで悶えている様子。
 まぁ、人生いろいろあるからね。
 ときには立ち止まってじっくり考えることも必要。
 だから放っておこうとムシを決め込み、ミヨちゃんたちは石拾いに精を出す。
 本日、河原まで足を運んだ目的がそれ。
 手頃な石にイラストや絵を書いて遊ぶため。
 この前、テレビでやっていたのを見て「ちょっとおもしろそう」とマネすることに。
 で、二人してキャッキャと石を探している間にも、チラリと視界に入るのは悩めるおっさんの姿。
 ウンウンうなっていたかとおもえば、ときには頭を抱え、ときにはその残量に乏しい頭畑をかきむしるという暴挙にでる。
 こうなると気になってしようがない。
 気づけばミヨちゃんはトコトコ階段に近づいて声をかけていた。

「さっきからずっとそんな調子だけど、だいじょうぶ?」

 幼女よりやさしい言葉をかけられたおっさん、とたんにブワっと泣き出したからミヨちゃんびっくり!
 そればかりか、「うわーん」と抱きつこうとしてきたものだから、もっとびっくり!!
 もっともそれは未然に阻止される。
 シュタっと横合いからおっさんの膝裏を蹴飛ばしたヒニクちゃん。
 下りでカクンとなったおっさん。そのまま階段を転がり落ちた。
 そのひょうしに冷静さをとりもどしたおっさん。コンプライアンス違反を自覚し「すまなかった。つい昔の自分の娘の姿と重なってね」とペコリ。

 で、おっさんが落ち着いたところで事情を聞けばなんてことはない。
 今日、おっさんの娘が自宅に彼氏を連れてくるという。
 手塩にかけて育てた娘に悪い虫がついたと狼狽する父親。
 それがこのおっさんの正体であった。

「いやだ、会いたくない」

 ごねるおっさん。

「気持ちはわかるけど、ここで対応をまちがうと、一生、娘さんから口をきいてもらえなくなるよ」

 ミヨちゃんの言葉におっさん、ビクリ。
 前々から言われていたのに会合をすっぽかしたら、娘はきっと怒るだろう。
 娘可愛さにて激情にかられ彼氏をけんもほろろにしたら、娘はきっと怒るだろう。
 かといってずっとブスっと渋面でロクに応対しなかったら、やはり娘はきっと怒る。

「それにヘタに反対とかしたら、かえって逆効果になるって、定番だよ」

 父親から「あんな男はダメだ。おまえにはふさわしくない」とか言われたら、娘がムキになって、それこそ駆け落ちとかしちゃうなんてパターン。
 ドラマやマンガではけっこう多い。
 そして父娘はうん年どころか、うん十年にも渡って確執することになる。
 果ては死に際に、ようやく孫を見て、病床で涙ながらに己の頑迷さを後悔することに……。

「だからとりあえず会うだけ会えば? もっと自分の娘さんを信じてあげなよ」

 小学二年生の幼女に諭されるおっさん。
 しぶしぶ立ち上がると、「わかった。がんばる」といってトボトボ帰っていった。
 それを見送りながらミヨちゃんがぼそり。

「でもとんでもないチャラ男がきたら、さすがに怒鳴ってもいいとは思う」

 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「同意」

 初めは印象が悪かったけど、あとからいい面を知って、
 すっかり好きになって打ち解けた。なんて話はレアケース。
 初見時のイメージはのちのちまで尾をひくのが人。
 人間のかけている色メガネの頑強さは、防弾ガラスの比じゃない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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