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849 かばー
しおりを挟む見上げた空は晴天なり。
足元を見れば、道端には動かなくなったセミがひっくり返っている。
視線を前へと向けると、トンボとチョウチョが仲良く舞う姿があった。
陽射しは少しやわらかくなったと思う。
着実に夏が終わろうとしている。
とはいえ、まだまだ暑い。
ときおり吹く風も、まだまだ熱風といった感じ
学校に持って行ったお茶の水筒が、下校時にはすっかり空っぽになるほどに残暑が厳しい。
そしてアスファルトの熱もこもっている状態なので、小学校二年生のミヨちゃんとヒニクちゃんだと、下校しているだけでもけっこうしんどい。
ふぅふぅ、いいながら「あついねえ」とぼやくミヨちゃんに、ヒニクちゃんもコクコクうなづく。
このままでは家に着く前に干上がってしまう。
そこでちょいと商店街のCDショップに立ち寄ることにした二人。
店内は冷房ガンガン。商品管理の意味もあるのだが、インターネットショッピングや電子音源が全盛の昨今、この手のお店は経営がなかなか厳しい。
だから客足も少ないがゆえの、この冷房の効き具合でもある。
でも涼みながら音楽を視聴できるので、ここは避暑地としてはなかなかの穴場。
もう少ししたら高校生やら帰宅途中の社会人のお客も増えてくるけれども、いまはまだちと早い時間帯。
よって、お店側もひやかしの幼女たちを邪険にあつかうこともなく放置してくれるから、助かる。
涼みがてら店内をぶらつく二人。
するとあるポスターを指差したミヨちゃん。
「あの演歌歌手知ってる。へー、今度、カバー曲のアルバムを出すんだぁ」
ポップ、ロック、ジャズ、演歌、ムード歌謡……。
ひと口に音楽といってもいろんなジャンルがあり、それだけ歌手も多い。
それらが垣根を超えた歌をうたうのが、カバー曲。
同じジャンルの他の人の曲を歌う人がいる一方で、まったくちがうジャンルに手を出す人もいる。
ちなみにミヨちゃんが眺めているポスターの演歌歌手が、今度チャレンジするのは、なんと! アニソン。
「演歌の人ってみんな歌がうまいんだよねえ。基本スペックが高いから、何でも歌えるっていうか、自分のものにしちゃうっていうか。うーん、これはぜひとも聞いてみたい……」
とはいえ幼女にCDアルバムは高価。ほいほい出せる金額ではないので、ここはレンタルすることになるだろうと、ミヨちゃん。
そう、このレンタル事業もまたCDショップの経営を圧迫する要因のひとつ。
一時ほどの隆盛は失せて、すっかり勢いを失くしたレンタル業界ではあるが、群雄割拠の時代を生き残っただけあって、現存しているところはやっぱり強い。
歌手やら作詞作曲を担当している人からすれば、実売だろうがレンタルだろうが、それなりに収入や宣伝などの利益につながるけれども、販売店側はちがう。
ただでさえ薄利なのに、レンタル業が幅を利かせる分だけ、あおりを受けて損失がかさむ。
はっきりいって死に体の業種。それがCDショップ。
なのにミヨちゃんの地域ではしぶとく生き残っていられるのは、地元の年寄り連中から支持されているから。
若い人からすると、借りて聞いたほうが安上がりなのだが、年配の人からすると、借りにいくのも返しにいくのもたいへん。貸し借りという行為そのものに抵抗があり、自分で購入したモノの方が気兼ねなく扱えるんだとか。
これはミヨちゃんのおばあちゃんや、その友人たちの意見。
そんなミヨちゃんの話に耳をかたむけていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「長く続けたやつが、いずれオンリーワンになる」
潮が満ちるように押し寄せる流行や時勢。
でもいずれは静かにひいていく。そのあとに残ったのが、
名曲であり名店であり、いい歌い手さん。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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