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850 あつもり
しおりを挟む夏場は空気が熱を持ちもわっとしている。
それにともなって気になるのがニオイ。
汗が臭う原因は、主に肥満、食事、ストレスだという。
でもこれは人間に限った話。
こと動物となると、またちがう。
「ぐっ、クッセー! もう、ダメだー」
叫びながら上級生の男子が逃げ出したのは小学校の飼育小屋。
ちなみに逃げ出したのは、これで四人目。
しかしそれも仕方のないこと。
もとから体臭がキツイ動物たちが、そのニオイをいっそう強烈にするのが夏。
家の中で飼っているネコやイヌですらもが、けっこう臭う。
それが学校の飼育小屋や動物たちともなれば、その比ではない。
よって夏場の飼育係は子どもたちから人気がない。
暑い、キツイ、くさい、といいところがないから。しかも人間同様に動物たちも暑さで気が立っているから、おっかないとくれば、敬遠されてもしようがない。
本日、ミヨちゃんとヒニクちゃんの二人は飼育係の子から泣きつかれてお手伝い中。
モフモフ好きだけど、蛇蝎のごとく嫌われているミヨちゃんは、それでもあきらめきれずに知識だけはムダに豊富。だからそれを活かして飼育小屋の掃除やセッティングに協力。
一方でモフモフたちに恋い慕われているヒニクちゃんは、その間、木陰にてアニマルたちを一身に引き受けている。
木陰にて多くの動物たちに囲まれて鎮座する姿は、まるで物語に登場するヒロインのよう。
しかし実態はちがう。
人が二人集まれば熱が生まれる。飼育小屋の帝王・雄ヤギのパッソを筆頭に、ウサギやら、ニワトリやら……。ただでさえ暑苦しい毛皮をまとったモフモフらに囲まれたら、その熱量たるや相当なもの。
とどのつまり、クソ暑いサウナ状態。あとニオイはたいして変わらない。むしろ一か所に団子になっているぶん、こちらの方がエグいかもしれない。
猛暑の下。
ケモノのニオイに苦しみながら掃除をする飼育小屋と、木陰で涼むほのぼの。
一見すると天国と地獄。
けれども、ひと皮むけばどちらも畜生地獄というのが真実であった。
生き物のお世話をする。
生き物を飼う。
生き物を大切にする。
そのたいへんさをあらめて思い知り、幼女たちが身を持って体験した、とある夏の日。
ミヨちゃんが「掃除おわったよー」と手を振っているのを見て、やれやれと腰をあげたヒニクちゃんがぼそり。
「教室があまっているんだから、いっそ室内飼いにすればいいのに」
少子高齢化社会に突入してひさしい。
おかげで生徒の数は減少の一途にて、空き教室も目立ってきた。
これを活用しない手はない。でないといい加減にどこぞより、
動物虐待とかで訴えられかねないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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