ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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859 こくせい

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 ミヨちゃんの家に大判の封書が届く。
 五年に一度、実施されるという国勢調査の書類。
 家族の生年月日やら構成やら、家や仕事の状況、就学の有無などなど。
 けっこう項目が多岐にわたっており、文字は細かくお年寄りにはちと厳しい内容。
 郵送でもいいけど、インターネットのサイトでも対応しているので、どちらでもお好きなように、となっている。
 これまでミヨちゃんの家では、お父さんが代表で筆をとり書類を書いていた。
 けれどもこれがとってもたいへん。
 たまの休日なのに、ちまちまと書面と向き合うのは、ものすごくテンションが下がる。
 ぶっちゃけ、面倒くさい。
 そこで今回はインターネットの方を利用することにした。
 これにともない担当もお父さんから、長男で大学院生であるヒロ兄へと変更。

 インターネットを繋いだパソコン、もしくはスマートフォンで「国勢調査」と検索すれば出てくる専用のサイト。
 そこにあらかじめヤマダ家に割り振られている番号を入力して、あとは案内に従ってポチポチと家族分のデータを入力していくだけ。
 サクサク進み、思いのほかに快適。
 時間帯も午前中のおかげかサイトの回線が混雑していない。
 この手のサイトではよくサーバーがパンクして落ちているので、ちょっと用心していたのだけれども、そんな心配もなく。
 しかし、いくつかの項目にさしかかるごとに、入力作業の手がとまるヒロ兄。

「えーと、家族の生年月日? 西暦何年だっけか、誕生日はたしか……。就学中はいいけど、お母さんらの最終学歴は何だっけ。あとお父さんの仕事内容って、けっこうちまちましたことを聞いてくるな」

 わからないことがあるたびに、家族に声をかけ情報収集する必要が生じる。
 これがなんとなく気まづいと、ヒロ兄はぼやく。
 たとえ身内でも個人情報に触れるのは、あまりいい気がしない。
 なんとなくズケズケと踏み込んでいるみたいで、心がザワつく。
 そして改めて思い知るのは、「意外に家族のことを知らない自分」がいること。
 もっとも近くにいる存在。なんでも知っているようで、案外知らないことが多い。
 それがまた、何やら心をズーンと沈ませる。

「手続き自体はわりと簡単だったの。そばで作業をするのを見てたけど、次々あらわれる項目を選択して埋めていくだけだから。でもなんだかドキドキした」

 いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校中に、そんなことを口にしたミヨちゃん。

「……にしてもあんなのを調べて、なにかいいことがあるのかな? 紙と予算のムダのような気がするんだけど」

 専用の書類を作って、配布して、それをまた郵送してもらって。あるいはインターネット上で処理をする。それだって専用のページを立ち上げる必要があるから、これを用意するのにも予算が費やされる。
 これを国民全世帯にて行うとなれば、とんでもない金額が動いている。
 それすなわち利権もゴロゴロしているのにちがいあるまい。

「うーん、なぜだろう。時代劇の越後屋と悪代官の図が目に浮かぶよ」とミヨちゃん。

 そんなご意見を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口をひらいた。

「国勢調査。大正九年からほぼ五年ごとに実施」

 調査結果はおもに行政の施策、各種法令を考える参考資料、
 人口や世帯の推計などの学術研究とかに活用されている。
 まぁ、利権が一切絡んでいないかといえば、そのへんは、ねえ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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