ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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916 にゃあ

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 猫屋敷といわれた家がある。
 少しばかり時代をさかのぼり、まだ世の中がかなりルーズでおおらかだった頃。
 良し悪しはともかく、歩きたばこやポイ捨てが横行し、ときおり路地裏にて立ちションベンをしているおっさんがいて、留守の時に隣近所が宅配便の荷を当たり前のように預かっていた。イヌやらネコの放し飼いなんて珍しくもない。ノラだってその辺にたくさんいた。お隣さん同士で調味料や食材の貸し借りもしょっちゅう。子どもたちのイタズラを見かけたら見知らぬ大人でも「こらーっ!」と怒り、それでいてちょっとした物損程度では「今度から気をつけろよ」とゲンコツ一発で許す。
 お互いさま。持ちつ持たれつ。
 そんな考えが当たり前のように巷にあふれていた時代。
 今みたいに、ネコやハトのエサやり程度では、誰も目くじらを立てない。
 しかし時代は変わった。
 あいかわらず動物の地位や権利はちっとも向上していないのに、扱いだけは厳しくなった。去勢するのが当たり前みたいな風潮にもなりつつある。
 きちんと管理していないと飼い主がやんやと云われるようになった。
 だというのに一方では多頭飼育なる言葉もちらほら聞く。
 なんとなくだがペットを巡る状況が二極化している。
 それは社会の縮図のよう。

 でもって、話題の猫屋敷。
 主の老婆が倒れて入院して、そのまま帰らぬ人となる。
 こうなると心配なのが家に残されたネコたち。
 留守宅から「にゃあにゃあ」と鳴き声が聞こえる。
 このままではかわいそうなことになると、憂いた保護団体がすぐさま動いたのだけれども……。

「ネコなんてどこにもいなかったんだって。飼っていた痕跡は残っているんだけど。みんなどこかに逃げたのかとも考えられたんだけど、家は窓も扉もぜんぶ鍵がかかっていて、完全に密室状態だったんだって」

 鳴き声はするのに姿は見えず。
 そして誰もいなくなったっという、ネコミステリー。
 しかしミステリーはここからホラー要素が加味されてゆく。
 保護団体が立ち入り、しっかり隅々まで家の中だけでなく屋根裏やら、軒下、床下まで確認してネコがいないことははっきりしている。
 戸締りに関しては家主の老婆の親戚がきちんとして管理している。
 なのに夜ごとにネコの声がする。
 日が暮れるとどこぞよりノラたちが集まっているのかと思われたが、屋敷の周辺にネコの姿はなし。
 この手の話はあっという間に広がるもので、だからこそミヨちゃんの耳にも届いていた。

「壁の隙間とかに挟まっている可能性もあったから、しっかり調べたんだって。でもそもそもそんな空間なんてないの。だってあの家は昔ながらの土壁なんだから。いまの家よりもむしろ壁は薄いぐらいなんだってさ」

 はたして真相やいかに?
 とミヨちゃんが考え込んでいる横で、同じく眉間にしわを寄せていたヒニクちゃんがぼそり。

「怪異はわからないからこそ、怪異である」

 理屈じゃあ説明のつかないことを、屁理屈をこねたとて
 きちんと説明がつくわけもない。だからこその怪異。
 月がキレイなのが理屈じゃないのと同じ。そういうもの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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