ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

922 ふきつ

　
　ある日のことだ。
　小学校の敷地内に子ネコが迷い込んだ。
　けっこうな騒ぎになった。
　まぁ、学校あるあるである。
　けれども騒動は続く。
　今度は迷いイヌが校庭に乱入。人懐っこいゴールデンレトリバー。近所から脱走したらしいけど、大きいからこれまたけっこうな騒ぎになった。
　お次は校舎裏にてタヌキの目撃証言がでて、子どもたちがこぞってその愛らしい姿を求めてうろうろ。
　するとあらわれたのはアライグマだった。タヌキとはちがって尻尾が長いから見る者がみればすぐにわかる。
　アライグマも見た目はかわいい。もっとも気性は荒いので「シャーッ」と全身の毛を逆立てて子どもたちをビビらせただけに終わったけれども。
　と思ったら、続けて繁みからイタチがひょっこり顔を出す。
　でも基本的に臆病な性格なので、すぐに姿を消した。

「なんだかこのところ動物がよく姿を見せるねえ」
「天変地異の前触れとかだったらイヤだなぁ」

　子どもたちの間でそんな会話がなされていたのだが、今度はカラスの大群が小学校の屋上を占拠している姿が目撃されて、みんながゾッとなる。
　なにやら不穏な気配を感じておびえる生徒たち。
　だから先生たちが屋上へと行って一帯を調べてみた。
　しかし何もなかった。「ひょっとしたらネズミの死骸でもあるのか」と探してみたけれどもなかった。貯水タンクの中も念入りに調べても異常はみられない。
　気づいたらカラスたちもどこぞに失せていたし、たまたま集団でツバサを休めていただけっぽい。
　同じことをしてもハトとかならば誰も気にしないのに、黒いカラスだと騒ぎになるのだから、ちょっと理不尽なような気がしなくもない。

　小学校の周辺に起こる小さな異変はまだまだ続く。
　中庭の池の鯉たちがやたらとビチビチ騒がしい。
　飼育小屋の動物たちもソワソワしている。
　雄ヤギの帝王パッソの頭突きがおっかないのは、いつも通り。
　でもボール遊びをしていて、転がっていったボールを追った先の排水溝にて、ヘビが多数うにょうにょしている姿に「ぎゃーっ！」と悲鳴があがったりもした。
　校庭の隅っこにある八葉箱にいつのまにやらミツバチが巣をつくって、ハチミツでねとねとになっていた。
　それをベロベロなめにノラネコとかが集っていた。
　もう何が何やら。どうなってるの？
　という不安が子どもたちの中に雪のように降り積もり、じょじょに怯える子も増えてきた。
　心がざわざわして落ち着かない。
　先生たちも察して気を配っているけれども、そんな大人たちも「ひょっとしたら何かあるのかも」とつい考えがちになっていたある日の夕方。

　いつにもまして夕陽が紅かった。
　それはもうありえないぐらいに。
　そして続く夕闇がとっても青紫色。
　まるで絵の具をぶちまけたかのように鮮明な色。
　これを遊びの帰りに目にしたミヨちゃんがぽつり。

「本当に何かが起きる前兆かも」

　それを受けて隣にいたヒニクちゃんもぼそり。

「災害前のそれっぽい話はよく耳にする。けど実際のところは……」

　あっ、そういえば。という話の大半はこじつけ。
　そもそもそんなすごいチカラがあるんだったら、
　人間風情に好き勝手を許してなんていないって。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。