ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

958 とぶ

　
　とってもいい天気。
　年明けの河川敷に顔を出してみれば、大勢の子どもたちが空を見上げている。
　で、何をしているのかといえば凧あげ遊びである。
　密密はダメ！
　ということで、友だちの家とかに集まることができない。
　カードゲームとかで遊びたいけど、お店の方がスペースを閉鎖しているので、そこもダメ。テレビゲームもネット回線とかがないとムリ。
　まぁ、そんな諸事情によって外での遊びに注目が集まり、その余波でなぜだか凧が爆発的に売れたそう。
　昔の遊びが一周回っていまの子にはめずらしい。
　そしてかつての子どもたちが夢中になっただけあって、やってみると案外これが楽しかったりもする。
　その影響がミヨちゃんの街にもおよんでいたという次第。

「おーっ、いっぱい飛んでるねえ」

　昨年大ヒットしたアニメの絵柄のゲイラカイト。
　スポーツタイプの本格派。
　大半が三角形の凧が多い中にあって、渋い絵柄の和凧もちらほら。
　そちらは祖父と孫といった組み合わせが多いかも。
　子ども同士や、お父さんといっしょにとか、いろんな組み合わせが適度に距離をあけて遊んでいる。
　そんな中にあってぐんぐん天を目指し駆け上がっていく凧があった。
　誰が操っているのかとおもえば子ども、それも小学校の上級生の集団。
　どうやら悪ノリにて「いけるとこまで、いっちまおうぜ！」となったみたい。

　ぐんぐん、ぐんぐん、天までとどけ。

　ぼんやりこれを眺めていたミヨちゃん。「あげるのはいいけど、アレって回収できるの」と首をかしげる。
　新春特番とかでよくやってるマグロの一本釣りのドキュメント。
　大海原から獲物を探し出し、百キロオーバーのこいつを釣り上げる。
　想像を絶する苦労と運と技術や経験が必須。
　油断すれば大怪我につながる。
　その道うん十年の達人漁師ですらもが、ときには失敗する。
　それほどまでに厳しく過酷。
　だからこそ釣り上げたときのよろこび、破格の報酬がもたらされるのだ。
　いっけん海の下と空の上にて、凧あげとは関係ないように見えるけど、どちらも糸一本で戦うという意味では同じこと。
　活きのいいマグロ、暴れるこいつを御して、水面上へと引きずり出すのはとってもたいへん！
　それと同じで、空の上で暴れる凧を御するのもきっと難儀するはず。
　にわか凧あげプレーヤー風情に、こいつを満足に操れるものなのであろうか？

　心配するミヨちゃん。
　すると案の定なことが起こった。
　上空の風は荒れている。
　引っ張られて制御不能になった天空の凧。
　ついにプツンと糸が切れて、そのままバイバイと飛んで行ってしまう。

「あーあ」

　残念がる子どもたち。
　糸の切れた凧はあっという間にどこぞへと飛んで行ってしまって、たちまち見えなくなってしまった。

「電線とかにからまなければいいだけどねえ」

　ミヨちゃんがぼそりとそうつぶやいたところで、隣にいたヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。

「たこ糸よりもテグスがおすすめ」

　海釣り用のテグスが軽くて丈夫で使いやすい。
　とはいえ糸が切れる可能性はあるので調子に乗ってはダメ。
　小さい子が糸にからまって宙に浮かんだケースもあるから
　けっして油断しないように注意して遊ぼう。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。