ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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959 しんしゅん

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「コント番組っておもしろいよね?」

 いきなりミヨちゃんからそうたずねられて、ヒニクちゃんがコクンとうなづく。

「漫才の番組もたのしいよね?」

 いまをときめく若手メインのものから、かつて一世を風靡したいぶし銀の御大連中までもがずらりと勢ぞろい。
 老若男女を問わず、幅広く笑わせてくれるひととき。
 それゆえにこれまたヒニクちゃんは小さくうなづいた。

「落語の演芸番組も見逃せないよね?」

 ふだんはテレビに出ない若手から、名人の域に到達している師匠クラスまで。
 なかなか高座のチケットがとれない落語家なんかも登場しては、存分にその話芸を披露する。
 同じ話でも演者がちがえば、まるで別物になるこの世界。
 その妙技にいつしかくぎ付けになって、至福の時はあっという間に過ぎてしまう。

「お笑い番組はいいよね。くさくさした気分もどこかに吹っ飛んじゃうし」

 笑いでストレス発散。
 笑いで健康に。
 笑うかどには福きたる。
 笑いは人生の清涼剤。
 笑いあってこその人生、笑いなき人生のなんと虚しいことか。
 以上を踏まえつつ、ミヨちゃんはさらにこう問うた。

「……なのにお正月の特番はどうしてあんなにつまらないんだろう」

 初笑いを届けようと、各局気合を入れて特番を組んでいる。
 古今東西、新旧、売れっ子、キワモノ、人気者をずらりと並べての豪華絢爛の舞台。
 笑い、笑い、笑い、笑い、が怒涛の連続。
 そしてコマーシャルを挟んでは、また笑いの連打。
 楽しくないわけがない。
 なのに「うん?」となる。
 単発ではそれなりにおもしろい。
 なのに通しで視聴していると「ううん?」となる。

「まぁ、その原因はだいたいわかってるんだけどねえ」とミヨちゃん。

 大御所が司会をしての東西わかれての笑い合戦。
 そんなスタイルが多いものの、まずこれがいけない。
 某歌番組のように綿密な打ち合わせとリハーサルを重ねての司会とはちがって、その場のノリ、個性と個性のぶつかり合い。
 結果として船頭多くしてなんとやら。
 で、うまくかみ合わないままに進み、影響は下へと波及する。
 ここでも問題が発生する。
 芸事の世界はけっこう上下関係が厳しい。
 どれだけ売れっ子の人気者でも、通すべき筋は通さなければならない。
 もしくは憧れの大先輩を前にして、ガチガチになる若手たち。
 そのせいで互いにいいところがまったく出せずに進行する。
 理想を言えば、それらすべてを理解しつつ円滑に舞台をまわせる技量が司会者に欲しいところ。
 だが、あまりにも盛りだくさんなメンバーゆえに、どうにもまとめきれない。

「なんだか空回りしてギクシャクしているんだよねえ。若手の勢いが消されて、むだに年寄りが大御所風を吹かせるんだけど、これがまたつまんないんだよ」

 微妙にかみ合ってない。
 はじめは小さな違和感が、放送時間が二時間、三時間と続くうちに更に肥大化。
 テレビ画面を通じて視聴者が「いまいち」と感じるほどになる。

「わたしが気づいてるぐらいだから、制作陣もわかってるとは思うんだけど」

 きっとわかっている。
 でも、とても言えやしないのだろう。
 この面子にいったい誰が何を言えると?
 あげくのはてに新年から再放送ばっかりって、ダメダメじゃん!
 ミヨちゃんのそんな不満を耳にして、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「結局のところ、愛と熱意が足りない」

 お正月イコールテレビがつまらない。
 いつの頃からかそんな図式が当たり前となって久しい。
 そのツケが現在の業界の衰退だと思うのだけど。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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