ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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999 おしまい

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 日頃は閑散としている神社の境内だが、今夜ばかりは様子が違う。
 今宵は様々な露店に、軽快な祭囃子と提燈の明かりに誘われた人たちで賑わう、夏祭りの日。
 その祭りの陽気でむせ返る人混みの中を、カランコロンと下駄を鳴らしながら歩く二人の小学生の女の子。
 提燈の明かりの下でも映える淡いピンク地に、色とりどりの朝顔たちが大輪の花を咲かしている浴衣を着て、ご機嫌だったのは生来の性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
 彼女の隣で、夜陰に溶け込むかのような濃い紺の地に、真っ白な桔梗の花柄が映える浴衣を身にまとっていたのは、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。
 ミヨちゃんの手には本日の戦利品である大きな目玉が特徴的な金魚の出目金(デメキン)の入ったビニール袋が下げられている。さっき金魚すくいでゲットした子。

「そろそろ河原の方へ行こうよ」

 ミヨちゃんの提案に黙ってうなづくヒニクちゃん。
 このお祭りでは近くの河原で花火大会も行われる。縁日をひと通りまわって祭りを堪能した後に、打ち上げられる花火を見物に行くのが幼女たちの恒例となっていた。
 だが彼女たちが花火会場へと向かっていると、突然、空模様が怪しくなり、にわかに激しい雨が降り始め、カミナリまでゴロゴロ。
 あわてて近くにあった屋根のあるバス停へと逃げ込む二人。
 まるで満杯のバケツをひっくり返したかのような雨。
 恨めしげににらみながら 「せっかくの浴衣がぬれちゃう……」とぼやくミヨちゃん。
 お母さんにおねだりして、ようやく手に入れた新しい浴衣。彼女はプンスカおかんむり。
 そんな彼女をよそに、濡れた髪を撫でつけながら空を凝視しているヒニクちゃん。

「これじゃあ、今夜の花火は中止かなぁ」

 お気に入りの浴衣が濡れて、しかも楽しみにしていた花火まで見れないだなんて、と嘆くミヨちゃん。
 するとここで、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「大丈夫。これは通り雨。すぐに止む」

 ヒニクちゃんの言った通りに、それから十分ほどで雨はすっかりあがった。
 そして雨上がりには、満天の星が輝く天の川が姿を現す。

「きれい……」

 夜空を見上げながら、思わず感嘆の声をこぼすミヨちゃん。
 まるでいまにも降ってきそうな星の世界に、しばし見とれる二人。
 すると彼女たちの耳に花火大会の開催を告げるアナウンスが聞こえてくる。

「いこう」

 差し出されたミヨちゃんの手をとり、仲良くつないで会場へと向かうヒニクちゃん。
 星空の下をカランコロンと下駄を弾ます幼女たち。
 子どもたちを優しく見守る夏の星座。
 彼女たちの夏は、まだまだ終わらない。

 雨は誰の上にも降る。だけどやまない雨はない。
 そして雨上がりの夜空には、星がまたたく。
 握りかえしてくれる手があること。それが一番の幸せだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。



―― ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持無沙汰。(おしまい) ――



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みんなの感想(1件)

アザミユメコ

ランキングから来ました。とりあえず3話まで。女の子2人のほのぼのかと思えば、1話からピリリと皮肉が利いていて面白いです。また続き読ませていただきます。

解除

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