108 / 242
108 救助活動
しおりを挟む着水の衝撃により盛大な水柱があがり、湖面が大きく波打つ。
噴き上がった大量の飛沫が雨となり、陽光を受けて小さな虹がかかった。
ついに飛空艇がハナ湖へと不時着した。
あちこち破損しておりボロボロだが、いちおうは原型を留めている。とりあえず無事と言えなくもない?
ひっくり返って固い甲羅側から水に落ちたおかげっぽいのだから、世の中何が幸いするのかわかったものじゃない。
――なんぞと、のんびりしている暇はなし。
虫どもに小突き回された船体は傷だらけにて、後部と左舷には爆発により大穴が開いている。
そのせいですぐに浸水がおこって、飛空艇がぶくぶく沈みだした。
なお撃墜犯であるシンケンセミたちは、着水間際にさっさと逃げ出しており、被害ゼロ。ひとしきりボコって気が済んだのか、ハナ湖上空にて群れで旋回行動をとっている。
そちらを気にしつつエレン姫が隊の者たちに命じた。
「すぐに救助活動を始めて下さい」
枝垂もそれを手伝うようにと飛梅さんとフセに頼む。
かくしてジャニスたち衛士らが飛空艇へと向かった一方で、枝垂は空へと目を向けた。
視線の先にはブブブと羽を振るわせ飛んでいるシンケンセミたちの姿がある。
「色みがだいぶんと落ちついてきているけど、目がまだほんのり赤い……完全には怒りが消えていないんだ。だとすれば、ひょんなことでまたぞろ怒りが再燃するかも」
危機は完全に去っていない。
沈みゆく船体、人命がかかっている。事態は一刻を争う。
もしも救助活動中に襲われたらたいへんだ。
そこで枝垂は救助活動に勤しんでいる現場から少し離れたところで。
「梅壺、出ろ」
亜空間収納「梅蔵」から取り出したのは、ハチノヘたちから貰った極上ハチミチを使った特製梅干しの詰まった壺。
木蓋をパカンとはずせば、たちまちあま~い香りが一帯に漂う。
蜜を好む昆虫類は多い。もしかしたらシンケンセミたちも、と枝垂は考えたのだが、その予想は的中する。
匂いを嗅ぎつけたシンケンセミたちが、さっそく枝垂のもとへとブ~ン。
白刃のごとき角を閃かせては我先にと殺到してくるシンケンセミたち。よくよく見てみれば角が微細に震動していた。高周波ブレードだ! あんなのに触れられたら、星クズの勇者なんて真っ二つであろう。
シンケンセミ、超おっかねえ!
すっかり腰が引けつつも、枝垂は勇を奮って叫ぶ。
「み、みんなの分があるから、ちゃんと並んで! でないとあげないよっ!」
必死の訴えが通じたらしい。
おかげで枝垂は突撃を受けて、串刺し細切れにならずにすんだ。
羽を畳み地上に降りたシンケンセミたちは、枝垂を幾重にも取り囲み、そろってじーっと見つめてくる。
もの凄いプレッシャー。枝垂は冷や汗をかきながらも、約束通り梅干しのハチミツ漬けを配っていく。
梅干しを口に含むと瞳の赤みが完全に失せて、もとの穏やかな青へと戻っていった。
どうやらお気に召してくれたらしい。これならもう攻撃されることはないだろう。
枝垂は安堵しつつ、せっせと給仕に精を出す。
☆
枝垂がシンケンセミらのご機嫌取りに励んでいた一方で、救援活動も着々と進んでいた。
人命第一にて、あちこちひしゃげた船体に潜りこんでは、これまたせっせと乗組員らを船外へと運び出し、岸へと送る。
岸で待ちかまえているのはエレン姫と数名からなる即席の救護班だ。
傷病者が多いので怪我の具合によってトリアージをし、処置を行う。
とはいえ、命にかかわるほどの重傷を負っている者は、いまのところ発見されていない。
船乗りというのは総じてタフだ。板子一枚下は地獄と云われる厳しい世界で生きているのは伊達ではない。そしてそれは空を渡る飛空艇乗りも同じであるようだ。
意識のある者から乗務員の数を聞き出したところ、二十一名とのこと。
思いのほかに数が少なかったのは、飛空艇の最初の寄港地がコウケイ国だったから。最果ての地を経て、辺境各国を巡り中央へと向かう予定となっていた。
もしも行程がちがっていたら、要救助者は数倍に膨れ上がっていたであろう。
そうなれば、とてもではないが全員を救い出すことは適わなかったはず……
ギリギリではあったが、どうにか間に合った。
ぶくぶくと沈んでいく飛空艇を前にして、駆けつけた一同はほっと安堵の吐息を零す。
重軽傷者二十名、死者一名
残念ながら飛空艇の回収は不可能であろう。
なにせここは別名「底なし」の湖なのだから。
ちょっともったいないけれども、しょうがない。
とか、犠牲者が出たのに不謹慎なことを考えていた罰が当たったのであろうか?
不意に湖面の中央付近がピカピカッと光り出す。
そういえばハナ湖には黄金級の禍獣が住んでいるという噂があったことを、いまさらながらに思い出して、枝垂は後退る。
だって、自分の寝床にあんな大きな粗大ゴミを捨てられたら、そりゃあ誰だって怒るよね?
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる