星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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108 救助活動

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 着水の衝撃により盛大な水柱があがり、湖面が大きく波打つ。
 噴き上がった大量の飛沫が雨となり、陽光を受けて小さな虹がかかった。
 ついに飛空艇がハナ湖へと不時着した。
 あちこち破損しておりボロボロだが、いちおうは原型を留めている。とりあえず無事と言えなくもない?
 ひっくり返って固い甲羅側から水に落ちたおかげっぽいのだから、世の中何が幸いするのかわかったものじゃない。

 ――なんぞと、のんびりしている暇はなし。
 虫どもに小突き回された船体は傷だらけにて、後部と左舷には爆発により大穴が開いている。
 そのせいですぐに浸水がおこって、飛空艇がぶくぶく沈みだした。
 なお撃墜犯であるシンケンセミたちは、着水間際にさっさと逃げ出しており、被害ゼロ。ひとしきりボコって気が済んだのか、ハナ湖上空にて群れで旋回行動をとっている。
 そちらを気にしつつエレン姫が隊の者たちに命じた。

「すぐに救助活動を始めて下さい」

 枝垂もそれを手伝うようにと飛梅さんとフセに頼む。
 かくしてジャニスたち衛士らが飛空艇へと向かった一方で、枝垂は空へと目を向けた。
 視線の先にはブブブと羽を振るわせ飛んでいるシンケンセミたちの姿がある。

「色みがだいぶんと落ちついてきているけど、目がまだほんのり赤い……完全には怒りが消えていないんだ。だとすれば、ひょんなことでまたぞろ怒りが再燃するかも」

 危機は完全に去っていない。
 沈みゆく船体、人命がかかっている。事態は一刻を争う。
 もしも救助活動中に襲われたらたいへんだ。
 そこで枝垂は救助活動に勤しんでいる現場から少し離れたところで。

「梅壺、出ろ」

 亜空間収納「梅蔵」から取り出したのは、ハチノヘたちから貰った極上ハチミチを使った特製梅干しの詰まった壺。
 木蓋をパカンとはずせば、たちまちあま~い香りが一帯に漂う。
 蜜を好む昆虫類は多い。もしかしたらシンケンセミたちも、と枝垂は考えたのだが、その予想は的中する。
 匂いを嗅ぎつけたシンケンセミたちが、さっそく枝垂のもとへとブ~ン。
 白刃のごとき角を閃かせては我先にと殺到してくるシンケンセミたち。よくよく見てみれば角が微細に震動していた。高周波ブレードだ! あんなのに触れられたら、星クズの勇者なんて真っ二つであろう。
 シンケンセミ、超おっかねえ!
 すっかり腰が引けつつも、枝垂は勇を奮って叫ぶ。

「み、みんなの分があるから、ちゃんと並んで! でないとあげないよっ!」

 必死の訴えが通じたらしい。
 おかげで枝垂は突撃を受けて、串刺し細切れにならずにすんだ。
 羽を畳み地上に降りたシンケンセミたちは、枝垂を幾重にも取り囲み、そろってじーっと見つめてくる。
 もの凄いプレッシャー。枝垂は冷や汗をかきながらも、約束通り梅干しのハチミツ漬けを配っていく。
 梅干しを口に含むと瞳の赤みが完全に失せて、もとの穏やかな青へと戻っていった。
 どうやらお気に召してくれたらしい。これならもう攻撃されることはないだろう。
 枝垂は安堵しつつ、せっせと給仕に精を出す。

  ☆

 枝垂がシンケンセミらのご機嫌取りに励んでいた一方で、救援活動も着々と進んでいた。
 人命第一にて、あちこちひしゃげた船体に潜りこんでは、これまたせっせと乗組員らを船外へと運び出し、岸へと送る。
 岸で待ちかまえているのはエレン姫と数名からなる即席の救護班だ。
 傷病者が多いので怪我の具合によってトリアージをし、処置を行う。
 とはいえ、命にかかわるほどの重傷を負っている者は、いまのところ発見されていない。
 船乗りというのは総じてタフだ。板子一枚下は地獄と云われる厳しい世界で生きているのは伊達ではない。そしてそれは空を渡る飛空艇乗りも同じであるようだ。

 意識のある者から乗務員の数を聞き出したところ、二十一名とのこと。
 思いのほかに数が少なかったのは、飛空艇の最初の寄港地がコウケイ国だったから。最果ての地を経て、辺境各国を巡り中央へと向かう予定となっていた。
 もしも行程がちがっていたら、要救助者は数倍に膨れ上がっていたであろう。
 そうなれば、とてもではないが全員を救い出すことは適わなかったはず……

 ギリギリではあったが、どうにか間に合った。
 ぶくぶくと沈んでいく飛空艇を前にして、駆けつけた一同はほっと安堵の吐息を零す。

 重軽傷者二十名、死者一名

 残念ながら飛空艇の回収は不可能であろう。
 なにせここは別名「底なし」の湖なのだから。
 ちょっともったいないけれども、しょうがない。
 とか、犠牲者が出たのに不謹慎なことを考えていた罰が当たったのであろうか?
 不意に湖面の中央付近がピカピカッと光り出す。
 そういえばハナ湖には黄金級の禍獣が住んでいるという噂があったことを、いまさらながらに思い出して、枝垂は後退る。
 だって、自分の寝床にあんな大きな粗大ゴミを捨てられたら、そりゃあ誰だって怒るよね?


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