星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
115 / 242

115 バロック、パドック

しおりを挟む
 
 幾重にも折り重なり、空間に奥行と陰影が産まれている。
 重厚かつ複雑な構造だ。そこかしこに施されてある豊かな装飾はどれも精緻にて、高い造形美と壮観さを併せ持つ。まるで建物それ自体がひとつの総合芸術作品であるかのよう。
 中世ヨーロッパの宮殿とか神殿みたいな、荘厳な石造りの建築物である。

(たしかバロック建築といったか……)

 雰囲気がよく似ている。
 にしても存在感が凄い。
 さぞや由緒のある建物なのであろう。
 だからこそ今宵の勇者お披露目の会場として選ばれたのか。

 大きくて立派な建物を前にして、枝垂はいささか尻込み。
 だが、そんな星クズの勇者を急かすように「みなさますでにお着きですので」と言ったのは案内係の軍人である。
 軍属らしく背筋がピンとしており、動作もキビキビ、態度も慇懃である。たとえ相手が星クズ判定を受けた者でも、雑には扱わない。
 が、一方で億尾にも感情をあらわすこともない。それこそ必要がなければ眉一つ動かさない。
 現在、枝垂はそんな相手とふたりきりにてエスコートを受けている。

 エレン姫やジャニスらとは引き離された。
 彼女たちはいちおう国の代表なので、貴賓席へと案内されている。飛梅さんとフセの同行も禁じられたので、そっちは控室で待機中。
 でもって、いま向かっているのは舞台袖である。
 建屋内部はオペラなどの劇場のようになっており、実際にふだんは歌劇や楽団などの上演がされているんだとか。

 舞台を正面に見据えるように配置された中央客席は、横一列が三十もあり、それが縦に五十も並ぶ。しかし緩やかな斜面となっているから、後方の席からでもしっかりと舞台が観える。その周囲を囲むようにして三層のバルコニー席が設けられており、そこからならば舞台上のみならず客席をも一望できそうだ。
 客席の壁や天井は音響に優れた素材で仕上げられており、歌手の肉声や楽器の音色が理想的に響くように設計されている。
 ステージが終わり、万雷の拍手が降り注ぐ時、それはもう凄いことになって感動の渦に巻き込まれること間違いなし……
 と、事前に案内係から渡されたパンフレットに書かれてあった。

 生憎と、演芸やコンサートとかとは縁がなかった枝垂は、初めて立ち入る劇場という場所に、かなりドキドキしている。
 本音をいえば、もう少しじっくり見て回りたかった。けれども、あとは枝垂の入場待ちと云われては、しょうがない。
 真打は遅れてやってくる。
 みたいだが、実情はむしろ逆である。
 飛空艇から下船して、諸々の手続きなんぞをする順番が、コウケイ国は一番最後であった。だから必然的に、そのあとのイベント会場へと到着するのも一番あとにならざるをえない。
 だったら、手続きをちゃっちゃとやればいいものを、入国審査官は妙なところで真面目で杓子定規であった。
 なのに会場へと到着早々「ほら、みんなとっくに席についているんだから、急いで急いで」と尻を叩かれるのだから、どうにも納得いかない。

  ☆

 先を歩いていた案内係の人が足を止めて、すっと脇へ身をひいた。
 どうやら舞台袖に着いたらしい。

「呼ばれたら、そちらの階段から舞台にあがってください」

 するとすぐに「コウケイ国の……」と名前を呼ばれた。
 枝垂は意を決して、階段をのぼり舞台袖から表へと向かう。慣れぬことにて膝がちょっと震えるのはご愛敬。

 とたんに向けられたのはスポットライト。
 あまりの眩しさに手をかざしつつ、舞台の方をみればずらりと居並ぶのは三十七人の星の勇者たち。なお客席から見て左から順に能力判定の序列となっているようだ。なにせ枝垂の立ち位置が舞台の一番上手寄りであったもので。
 こうして一同が揃うのは、召喚直後の白いドームで同席して以来だ。
 だが、スポットライトのせいで彼らの表情はよくわからない。
 一方で、客席の方はといえば、がらんとしており空っぽであった。
 連合軍のお偉方や、勇者たちに同行してきた各国大使らは、おそらくバルコニー席に居るのだろうけど――

「なんだか厭な雰囲気だよ。ジロジロと不躾な視線を感じる。値踏みされている。これじゃあ、まるで競馬のパドックじゃないか」

 パドックはレース前に出走するウマたちをお披露目する場所のこと。
 競馬の玄人たちは、ここでウマたちの状態を確認して、どのウマに賭けるかの参考にするという。
 もっとも枝垂たち新入りは、駆けっこではなくて戦わされるのだけれども。
 エレン姫は好きに暴れてかまわないと言っていたけれども、はてさてどうしたものやら。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...