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115 バロック、パドック
しおりを挟む幾重にも折り重なり、空間に奥行と陰影が産まれている。
重厚かつ複雑な構造だ。そこかしこに施されてある豊かな装飾はどれも精緻にて、高い造形美と壮観さを併せ持つ。まるで建物それ自体がひとつの総合芸術作品であるかのよう。
中世ヨーロッパの宮殿とか神殿みたいな、荘厳な石造りの建築物である。
(たしかバロック建築といったか……)
雰囲気がよく似ている。
にしても存在感が凄い。
さぞや由緒のある建物なのであろう。
だからこそ今宵の勇者お披露目の会場として選ばれたのか。
大きくて立派な建物を前にして、枝垂はいささか尻込み。
だが、そんな星クズの勇者を急かすように「みなさますでにお着きですので」と言ったのは案内係の軍人である。
軍属らしく背筋がピンとしており、動作もキビキビ、態度も慇懃である。たとえ相手が星クズ判定を受けた者でも、雑には扱わない。
が、一方で億尾にも感情をあらわすこともない。それこそ必要がなければ眉一つ動かさない。
現在、枝垂はそんな相手とふたりきりにてエスコートを受けている。
エレン姫やジャニスらとは引き離された。
彼女たちはいちおう国の代表なので、貴賓席へと案内されている。飛梅さんとフセの同行も禁じられたので、そっちは控室で待機中。
でもって、いま向かっているのは舞台袖である。
建屋内部はオペラなどの劇場のようになっており、実際にふだんは歌劇や楽団などの上演がされているんだとか。
舞台を正面に見据えるように配置された中央客席は、横一列が三十もあり、それが縦に五十も並ぶ。しかし緩やかな斜面となっているから、後方の席からでもしっかりと舞台が観える。その周囲を囲むようにして三層のバルコニー席が設けられており、そこからならば舞台上のみならず客席をも一望できそうだ。
客席の壁や天井は音響に優れた素材で仕上げられており、歌手の肉声や楽器の音色が理想的に響くように設計されている。
ステージが終わり、万雷の拍手が降り注ぐ時、それはもう凄いことになって感動の渦に巻き込まれること間違いなし……
と、事前に案内係から渡されたパンフレットに書かれてあった。
生憎と、演芸やコンサートとかとは縁がなかった枝垂は、初めて立ち入る劇場という場所に、かなりドキドキしている。
本音をいえば、もう少しじっくり見て回りたかった。けれども、あとは枝垂の入場待ちと云われては、しょうがない。
真打は遅れてやってくる。
みたいだが、実情はむしろ逆である。
飛空艇から下船して、諸々の手続きなんぞをする順番が、コウケイ国は一番最後であった。だから必然的に、そのあとのイベント会場へと到着するのも一番あとにならざるをえない。
だったら、手続きをちゃっちゃとやればいいものを、入国審査官は妙なところで真面目で杓子定規であった。
なのに会場へと到着早々「ほら、みんなとっくに席についているんだから、急いで急いで」と尻を叩かれるのだから、どうにも納得いかない。
☆
先を歩いていた案内係の人が足を止めて、すっと脇へ身をひいた。
どうやら舞台袖に着いたらしい。
「呼ばれたら、そちらの階段から舞台にあがってください」
するとすぐに「コウケイ国の……」と名前を呼ばれた。
枝垂は意を決して、階段をのぼり舞台袖から表へと向かう。慣れぬことにて膝がちょっと震えるのはご愛敬。
とたんに向けられたのはスポットライト。
あまりの眩しさに手をかざしつつ、舞台の方をみればずらりと居並ぶのは三十七人の星の勇者たち。なお客席から見て左から順に能力判定の序列となっているようだ。なにせ枝垂の立ち位置が舞台の一番上手寄りであったもので。
こうして一同が揃うのは、召喚直後の白いドームで同席して以来だ。
だが、スポットライトのせいで彼らの表情はよくわからない。
一方で、客席の方はといえば、がらんとしており空っぽであった。
連合軍のお偉方や、勇者たちに同行してきた各国大使らは、おそらくバルコニー席に居るのだろうけど――
「なんだか厭な雰囲気だよ。ジロジロと不躾な視線を感じる。値踏みされている。これじゃあ、まるで競馬のパドックじゃないか」
パドックはレース前に出走するウマたちをお披露目する場所のこと。
競馬の玄人たちは、ここでウマたちの状態を確認して、どのウマに賭けるかの参考にするという。
もっとも枝垂たち新入りは、駆けっこではなくて戦わされるのだけれども。
エレン姫は好きに暴れてかまわないと言っていたけれども、はてさてどうしたものやら。
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