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018 はっけよーい、のこった!
しおりを挟む一階廊下、セカンドチャレンジ開始。
列となり突き進むわたしたち。
それにパッソが猛然と向かってくる。
両陣営が正面から激突する。
「とぉうりゃあぁぁぁーっ!」
先頭を走るカクさんが吠えた。
気合いもろとも、放たれたのは丁字ホウキの柄頭。かくかくするブラシの方ではなくて、こちらを相手に向けたのは、そのほうが突きが鋭くなるからか。
そしてこれこそがカクさんの秘策にして、とっておき。
事実、容赦のない電光石火の一撃であった。
シュバッと鋭い風切り音にて、狙うはパッソの離れた目と目の間――
ヤギは草食動物だ。
その名の通り、草をムシャムシャ食べるのだけれども、それ以外にも身体的特徴がある。それは目が顔の横についていること。これは広い視野を確保することで、外敵から身を守るためにそう進化したと云われている。
そんな草食動物だが、目が側面にあるがゆえに、真正面がちょっと苦手だったりする。
――パッソの眉間へとカクさんの突きが吸い込まれていく。
ガッ!
重く鈍い音がした。
狙いあやまたず、ホウキの柄頭がパッソの頭にヒット。
でも当たった刹那、くんっとわずかにホウキの先端が浮いたもので、カクさんが「ぬっ?」と怪訝な声をこぼす。
その声は直後に「ちぃいぃぃ」というあせりを含んだものに変わった。
なぜなら突きが当たったのが、眉間ではなくてやや上にズレた箇所であったから。
とっさにパッソが頭をさげたのだ。柄頭が接触したのは角切りされた跡。
角切り――角を取り除くのは安全と健康への懸念から。
だからパッソの頭には角がない。
でも、常日頃からガシガシ頭突きをしまくっては鍛えているだけあって、角切り跡はフルフェイスのカーボンヘルメットばりに頑丈となっている。
柄頭が角切り跡の表面を滑っていく。
パッソがカクさんの渾身の一撃を受け流した!
なまじ鋭い突きであるがゆえに、途中では止められない。
「くっ、やりよる。だがこれならばどうだ」
突きをいなされたカクさん、すぐさま長柄の持ち手の位置をずらしては、かちあげられた勢いを利用して丁字ホウキをくりんと回す。
半円を描き、床すれすれを振り抜かれたのはブラシの部分。
下からアッパー気味にパッソのアゴを狙う。
それは見惚れるほどの槍回し――もといホウキ回しであった。
カクさんが元武士であるという話が、ここにきてがぜん信憑性が高まってきた。
けれども、ざんねん。
さらにパッソが踏み込んだことにより、狙いがそれて当たったのはパッソの逞しい胸筋のところ。
高所や斜面、断崖絶壁をものともせずに移動するヤギ。その全身は筋肉の塊だ。つい脚部にばかり注目しがちだが、じつは前足の付け根にある胸部のムキムキ具合もすごかったりする。
両前足と胸部にて、カクさんの丁字ホウキは完全に止められてしまった。
以前にも言及したが、雄のヤギは体重が百キロ近くもある。
こうなるともうダメだ。骨ばかりの骨格標本では、どれだけがんばろうともビクともしやしない。
しかしカクさんはまだ勝負をあきらめてはいなかった。
「ふん、ならば素手で相手をするまでじゃ!」
丁字ホウキを手放し、突っ込んでくるパッソの頭突きを受け止める。
どうやらカクさんは相撲勝負に持ち込むつもりのようだ。
そういえば武士は相撲好きと聞いたことがある。かの織田信長も大好きで、ことあるごとに家臣たちに相撲を取らせては、勝った者に褒美をとらせていたとか。
鍛錬の一環としても相撲を取り入れていたらしい。ひょっとして武芸百般とやらには、相撲も含まれている?
ならば、これは期待していいのでは?
最後尾にいるわたしはドキドキしながら勝負の行方を見守る。
中堅で控えているジンさんも、きっとドキドキしていることであろう。
はっけよーい、のこった!
がっつり組んだ両雄。
一瞬の拮抗ののち、カクさんはパッソの頭突きをサッとかわし、その首をむんずと脇に抱え込んでは、巻き込むようにして「うらぁ」と首投げを狙う。
タイミングはばっちりにて、これは決まる。
かと、おもわれたのだけれども――
ゴキリ。
厭な音がした。
思い切りひねったひょうしに腰の骨がはずれてしまい、カクさんは「あっ」
先鋒戦。
カクさん続行不能につき、勝者パッソ。
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