下出部町内漫遊記

月芝

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052 ボートレース

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 競艇場でのボートレース。
 そう言われたもので、わたしはてっきり、もの凄い速度で水上を疾走するモーターボートのことだとおもった。
 でも、わたしはまだ小学校を卒業したばかりである。
 当然ながら免許の類は何も持っていない。
 それに競艇選手ってたしか専門の学校に通って、資格を得る必要があったはず。前にテレビでボートレーサーの養成所を特集している番組でそんなことを言っていたのを覚えている。

 ジンさんやカクさんもたぶん免許は持ってない。
 だから「あのぅ、さすがに無免許運転はちょっと……」とわたしがおずおず口にすれば、「ははは、心配いらないよ」と女海賊――阿蓮(あれん)は笑って、ツカツカツカ。
 ブーツのカカトを鳴らしながら向かったのは桟橋近くに浮かべてある、六つの黒い幕がかけられているところ。

 幕のうちの一枚を掴むなりバサッ、阿蓮はおもいきり引っぺがした
 下からあらわれたのは………………足漕ぎボート!?
 遊園地や水辺の行楽地で、レンタルされているのをちょいちょい見かけるアレだ。
 なるほど。たしかにこれならば免許や資格は必要ない。
 阿蓮が次々に幕をめくっていく。

 すらりとのびた長い首と純白の体が美しいハクチョウ型の足漕ぎボート。
 アヒルさん型、オスのマガモ型などの動物タイプから、車体のような形状のモノ、自転車のようにまたがって漕ぐタイプ、カヤックにペダルが合体したタイプ。
 計六種類の足漕ぎボートがお目見え。

 スピードは出るけど安定感がいまいちだったり、安定しているけど加速がそこそこだったり、直線はいいけど横波に弱かったり、漕げば漕ぐほどグングン速度は出るがペダルがめちゃくちゃ重かったり、オールとの併用が可能だが扱いがムズカシイ、可もなく不可もなかったり。

 ひと口に足漕ぎボートといってもいろいろ。どれも一長一短にて。
 しかも阿蓮によれば「ほら、ごらん。ハンドルの真ん中に丸いボタンがあるだろう? これを押せばシークレット機能が起動する。効果はまあ、あとのお楽しみってことで。各自説明書で確認してくれ」とのこと。

 まぁ、それはさておき。
 どうして六艘も足漕ぎボートがあるのか?
 答えは簡単、レースに出場するのが六チームだから。

「だって、あたしとあんたらだけのタイマン勝負じゃ、見てる方も、やってる方もつまんないだろう? こういうのは大勢でわちゃわちゃ競うからこそ白熱するってもんさ」

 と阿蓮。
 主催者側にそう言われたら、こちらとしては「そんなもんか」と納得するしかない。
 でもって厳正なるくじ引きの結果……

 ハクチョウタイプに搭乗するのは、オオカミのマスクをかぶった男女二人組。マスクといってもお面じゃなくて、頭から首の根元まですっぽり隠れるやつね。
 外聞を気にせずいちゃつくバカップルにて、こいつらはムシしていいだろう。

 アヒルさんタイプはポメラニアンのマスクをかぶったオバちゃんの二人組。
 顔がみえないのに、どうして相手がオバちゃんだとわかるのかといえば、ヒョウ柄の服と体形から……ゲフンゲフン。
 まぁ、それはともかくこのチームは油断できない。
 なぜならオバちゃんたちは常日頃から自転車を爆走させては、特売のたびにあちこちのスーパーをはしごしているから。あの鍛えられたたくましい足腰と精神力はあなどれない。

 マガモタイプには……なんと! 阿蓮がひとりきり。
 よほど体力に自信があるのか、彼女は単独での参戦だ。
 事実彼女は立派な体躯をしている。それになんといっても神座を狙う七葉の一角を担う者。
 阿蓮の動向にはつねに目を光らせておくべきだろう。

 自転車タイプを引き当てたのは、わたしたちのチームだ。
 サドルが三つあって三人で「えいさ、ほいさ」と漕げる。小回りはあまり期待できないけど基本操作は自転車なので、これならばわたしでもどうにか問題なく扱えそう。
 ただし構造上、やや縦に細長い船体であるがゆえに、横風や横波には特に気をつけなければいけない。

 フォルクスワーゲンっぽい車体をしたタイプには、ウマのマスクをつけた背広の二人組。
 マスクの中身は銀行マンか役所の人であろうか?
 なんとな~くそんな雰囲気が漂っている。
 が、このふたり。
 なにげにスタイルがいい。背が高く均整のとれた体にて、足もすらりと長く、スーツのチラシのモデルとかをやっていても不思議じゃない。
 かなりの意識高い系とみた!
 だとすれば、仕事の合間にジムとかに通っては体形維持に努めている可能性が高いので、これまた油断せずにいこう。

 カヤックにペダルが合体したタイプには、マウンテンゴリラのマスクにランニングシャツと短パンといういでたちのマッチョな二人組が乗ることに決まった。
 この船体は足で漕ぎながら、腕でオールを扱える。
 彼らのパワーが合わさればとんでもない速度が出そうである。

 抽選結果が出て、誰がどれに乗るのか決まったところで、一枝さんがぼそり。

「ふ~ん、なんだかんだで示し合わせたかのような組み合わせだねえ」

 うん。それはわたしもちょっとおもった。
 でも、いらぬ物言いをしてこれ以上観客たちからの反感を買いたくないので、わたしは「しーっ」
 お口にチャックをしておく。


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