古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝

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057 宝石の悪魔

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 周辺で不吉な出来事が続くブルーダイヤの指輪。
 その経歴を辿るつもりが一歩目からつまづいたどころか、散々である。
 前の持ち主は亡くなるわ、故人の家は燃えてるわ。生前は家庭不和っぽかったことからして、人間関係でのトラブルも抱えていたのかも。

 貴重な宝石にもかかわらず、ご遺族が引き取りを拒否したことからして、他にもいろいろと凶事が起きていたであろうことが容易に推察される。
 さらには現在の所有者である弁天屋でも火が出た!
 不幸中の幸いにて小火で済んだけど、とてもではないが、のんびりと指輪の過去を探っている場合じゃない。厭な感じがする。どうにも危うい。
 だから、亮介兄ちゃんが営んでいる、いわくつきの品ばかりを専門で預かるトランクルームにて隔離したのだけれども……

「まぁ、しょせんは一時しのぎだよねえ。こんなのでどうにかなるんだったら、とっくになんとかしているだろうし」

 寺社で御祓いをしてもらうとか、マジもんの専門家に頼むとか。
 前の持ち主もたぶんやったのだろう。
 でも、どうにもならなくて、ついに手放したのだろうけど。

 とりあえずこの日は解散となり、千花はひとり伯天堂に戻った。

「さて、やっかいなことになった……どうしよう」

 明日からは学校だし、このことばかりにもかまけてはいられない。家業に学業にとやることがたんとある。
 だからできるだけ早く解決への道筋をつけたいところなのだが、相手は高価でカチカチな宝石である。最強硬度のダイヤモンド。
 ぶった斬るなり、壊すなりして「はい、おしまい」とはいかないだろう。

「う~ん、たしかダイヤモンドってば炭素の塊で燃えやすかったっけか。
 本当はダメだけど、燃えるゴミの日にこっそりまぎれて出せば、イケるかしらん? ゴミ処理場の焼却炉ってば、たしか千度ぐらいにまでなるはずだし」

 小学生の頃に社会の授業で、先生がそんなことを口にしていたような気がする。
 古来より炎は穢れを払い浄化するとされてきた。
 茜ちゃんには悪いけど命あっての物種だろう。
 最悪、破棄することも考えないと。

「でもあの宝石ってば火を操ってるっぽいんだよねえ」

 並みの焼却炉ぐらいだったら平然としてそう。
 ならば陶芸の焼き窯か、工業用の真空炉にでもぶち込むべきか。
 千花がリビングのソファーに座りウンウンうなっていたら、ひょっこり顔を出したエリザベートに「ようやく帰ってきたとおもったら、ずっとブツブツ、気持ち悪いのデース」と言われた。
 勝手に動き回るビスクドールにだけは言われたくない。
 とか思いつつ、千花は「じつは……」と今日あったことについて話した。
 そうしたら「オー、宝石の悪魔デスカー。いまでもいるのデスネー。なつかしいのデース」とエリザベート。

「なつかしいって、エリザベートにはそんな知り合いがいたの?」
「いえいえ、さすがに知り合いではありまセーン。ですが、これでも貴族のはしくれでしたもので」
「?」

 貴族と宝石の悪魔とやらに、いったいどんな関係が。わけがわからず千花は首をかしげる。
 そうしたら教えてくれた。

 宝石の悪魔とは、ジュエリー類にまつわる怪異全般をあらわす言葉。
 貴族といえば豪華なアクセサリーやドレスが欠かせない。
 よって宝石にかかわることも自然と増える。
 そして高価な品であるがゆえに、人の手から手へと渡ることも多く、欲望と無縁ではいられない。
 羨望、渇望、妬み嫉み、その他もろもろを刺激する。
 いやがうえにもカルマが積み上がっていく。もしくは蓄積しやすい物品なのだ。

 で、いくら気に入ったからとて、そんないわくのある品を所有するのはちょっと怖いし、外聞もあまりよろしくない。
 そこで行われていたのが、みそぎの儀式である。

「禊? いったい何をしていたのエリザベート。教会に持ち込んで神父さまにお祈りしてもらったり、聖水をぶっかけたりとか」
「あー、そういうのもありましたネー。ですが、もっとてっとり早いのがアリマシテー」

 その方法というのが、合わせ鏡を用いるやり方。
 二枚の鏡を向かい合わせにすれば、延々と彼方にまで続く無限の世界がたちまち出来上がる。
 あとは鏡と鏡の間に宝石を置いておくだけ。
 そうすれば、とり憑いていた悪魔とやらが誘いだされて、勝手に無限回廊に迷い込み、いなくなるという。

 とっても簡単である。
 これならすぐにでも試せそうだけど。

「でも、こんなので本当に宝石に憑いているのを払えるの?」
「さぁ? でもワタクシの家ではこれでノープロブレムだったのデース」

 エリザベートは生前、けっこう裕福な伯爵夫人であった。
 なんでも城持ちだったらしい。
 けど、それゆえにいろいろあったそうな。
 まれに宝石の姿をしたヤバい呪物が届けられるなんてことも。
 貴族社会は基本的に足の引っ張り合いである。
 表ではニコニコ優雅に微笑みながら、ドレスの陰では激しい踏み合い、蹴り合いをしていた。
 だから対策にはけっこう神経を尖らせていたらしい。

「合わせ鏡か……。他にこれといった方法も思いつかないし、せっかくだから試してみるかな」

 意外にも身近なところからもたられた有力情報。
 上手くいけば御の字。ダメならまた別の方法を探せばいい。
 その気になった千花はスマホを取り出し、さっそく茜ちゃんに相談してみることにした。


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