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030 盆踊り ― 戦え、ぼくらの五十嵐工務店
しおりを挟む埴輪騎馬兵らによる猛進により、はやくも右翼が崩されようとしていた。
もしもこのまま突破されて、勢いのままに池を迂回されて背後へと回り込まれたら、左翼が挟撃されてしまう。
そうなればいかに四天王とて危うい。
戦線は崩壊し、商店街側は総崩れになるだろう。
だがそうはさせじと動く一団があった。
五十嵐工務店提供によるミニショベル隊である。
商店街にある同工務店は「小さな仕事からコツコツと」が信条だ。地域密着型の建築会社にて、腕のいい職人さんをたくさん抱えている。
親子三代に渡る信頼と実績を誇っており、リフォームの評判は上々。
アマガエル色のカラーリングが可愛らしい鋼のボディ、悪路でもへっちゃらなキャタピラー付きの台車に油圧ショベルが付いた掘削用建設機械――通称・ユンボたち。
七機が埴輪騎馬兵たちの前に立ち塞がった。
成りは小さくとも立派な重機で、とってもパワフル。
グィ~ン、ガシャン、キュインキュイン。
長いマシンアームを巧みに操作するのは、春夏秋冬、急傾斜地から災害復旧まで、ありとあらゆる過酷な現場を経験してきた百戦練磨の重機乗りたち。
大胆かつ精密、ピアニストのごとき華麗なレバー捌きにて、鋼の一本腕を自在に操っては「しゃらくせい! こっから先は一歩も通さんぞ」と勇ましい。
そんな操者の意気に答えるかのようにして相棒のエンジンが吠える。
ドドドとアイドリングをしては武者震い。マフラーから煙をポッポと吐く。
高らかに持ち上げられたバケット――先端のスコップみたい部位のこと――が容赦なく振り下ろされた。
あるいはマシンアームの横薙ぎにてオラオラ、ラリアットのごとくぶん回される。
直後、重たいモノ同士がぶつかる激しい衝突音が鳴り響いた。
どんがらがっしゃん!
さながら多重事故現場のごとき狂騒にて。
ミニショベルの攻撃をまともに喰らった埴輪騎馬兵が落馬したり、馬ごと横転したりする。
が、なかには七本の豪腕をすり抜けて肉迫する個体もあって――
ずどぉおぉぉーん!
体当たりをされて、ミニショベル隊側にも被害が発生した。
おもいのほかに固い埴輪たち。
それもそのはずだ。なにせ連中は屋外展示用にと、金に糸目をつけずに特注されたバブル期の遺物なのだから。
見た目こそは素焼きでも中身はガッチガチ、高強度な鉄筋コンクリート製にて。
そんなものが駆け回っているのだ。
突進力は時速40キロの軽トラックばり、瞬間的には1トンほどもの力が生じ、追突をされたら、むちうちになりかねないほどの衝撃となる。
固い、重い、頑強なハイパー埴輪たち。
いかにミニショベルカーとて簡単には粉砕できない。
鉄筋コンクリートの解体はとってもたいへんなのだ。高度な技術と専用の重機や道具類が必要とされる。
だからこそミニショベル隊ばかりには任せていられない
「それいまだよ! おまえたち、やっちまいな!」
現場監督の姉御の合図により、「うぉーっ」
うしろに控えていた作業員たちが一斉に駆け出しては、倒された埴輪騎馬兵へと群がっていく。
各々手にしたハンマードリルにコンクリートカッターやコンクリートチェーンソーなどの電動工具にて、ガガガガガガ!
舌なめずりにて解体作業を開始する。
もちろん安全のためのゴーグルの着用は必須にて。注意一秒、怪我一生。気をつけなはれや。
「ひゃっはー、どいつもこいつも解体だーっ」
「バランバラにしてやんよぉ」
「けけけ、俺さまのドリルを突っ込んでやるぜぃ」
かくして五十嵐工務店一同の奮闘もあり、右翼はどうにか盛り返すことに成功した。
でもそんな右翼の苦労をよそに、暴れ回っている左翼の連中ってばいったい……
〇
一進一退の攻防をみせる戦局。
この状況にずっと貧乏ゆすりが止まらない。
苛立ちを隠せないのは、後方の輿にてふんぞり返っている曼菩右久々知日高だ。
「えぇい、この程度の者らに何を手こずっておる、さっさと片づけぬか! おぬしもぼんやり突っ立ってないで、とっとと行ってこい!
おぉ、そうだ。ついでによき足の女子がおれば連れてまいれ」
遮光器土偶が手にしていた扇子を投げつけたのは、脇に控えていたクマ公マークⅢである。
命じられるままに双頭四本腕の異形は駆け出した。
四天王のいる左翼へ向かうのか?
それとも五十嵐工務店の活躍が目覚ましい右翼?
いいや、どちらもちがう。
クマ公マークⅢが選んだ進路は第三の選択肢、なんと! ど真ん中であった。
ザブンと頭から池に飛び込んだとおもったらバシャン! バシャン!
四本腕による豪快なバタフライ泳法を披露しては、両岸の戦いを横目にグングン突き進む。エサかとかんちがいして群がってくる鯉たちをペチペチ打ち払い、撥ね飛ばし……
明智左馬之助の湖水渡り伝説を彷彿とさせる池渡りを敢行する。
クマ公マークⅢは勢いのままに池を泳ぎ切り、向こう岸へと到着してしまった。
このまま無人の野を行くがごとく突き進み、祭壇や盆踊り会場を破壊し、調伏の儀は阻止されてしまうのか!?
とおもわれたとき――
「ふっ、やっぱりな。そう来るとおもったぜ」
岸へとあがろうとしているクマ公マークⅢへと銃口を向けるは山田恭平・平巡査だ。彼の上司である巡査長・飯塚次郎ことジローさんに、本日の応援にと駆り出された三名の警察官たちもいる。
五人の手にはガサ入れの際にこっそりくすねておいた、世間では存在しないことになっているのでいくら撃っても問題ない魔法の銃が握られていた。
かつてある熱血刑事はこう言った。
「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」と。
けどその現場で口裏を合わせてしまえば、それすらもなかったことにできてしまうのだ。
戒告、減給、停職、免職なんぞクソくらえ、懲罰がなんぼのもんじゃい!
五人だけではなかった。
真姫の祖父の狩猟仲間である猟友会のメンバーらも駆けつけてくれている。その数は七人、ライフルやら散弾銃を構えては、ピタリと照準を合わせている。
発砲許可? 緊急銃猟制度?
そんなものは知らん!
何度も言うが、事件とは目撃者と証言があってこそ成り立つモノ。
居合わせた全員が口をつぐんで、証拠さえ消してしまえば黒も白になるのだ。
――えっ、罪悪感はないのかですって?
ふんっ、そんなものは公園の池に捨てて、鯉にでも喰わせておけ。
「……というわけで、あばよクマ公」
恭平が引き金をひいた。ファイヤー!
続けて飛び道具組の全員が連続で発砲し、ダンダンダダダダダダ……
ありったけの鉛玉を撃ち込まれて、クマ公マークⅢの体がくるくる舞い踊る。
蜂の巣にされたその身がぐらり、ゆっくりと前のめりに倒れていく。
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