ただいまクマの着ぐるみ警報、発令中!

月芝

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031 盆踊り ― 神道滅却!叢雲兄弟

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 倒れていくクマ公マークⅢに、恭平がおもわず「やったか?」
 と口にしてしまったもので、飛び道具組の一同が「このスカポンタン! 余計なフラグを立ててんじゃねえよ!」との意を込めてキツと睨む。
 そうしたら案の上であった。

 どうと前のめりに倒れ伏すかとおもいきや、ヤツの体が途中で止まった。
 四本腕のうちの二本を地面についてこらえている。
 かとおもえば、腰からお尻のあたりがクイとあがって、体がくの字を寝かせたような格好となった。背中から生えているもう二本の腕が、スーパーカーのガルウィングドアみたいで、ちょっとカッコいいかも。

 頭をさげて尻をあげた格好というか……これは構え?
 まるで陸上の短距離走で行われるクラウチングスタートのような……
 ハッとしてジローさんが叫ぶ。

「まさか! いかん、全員、すぐに退――」

 注意喚起は最後まで言わせてもらえず。
 ダンッ! 後ろ足にて地面を踏みしめるなり、土煙と水飛沫が盛大に舞った。
 ズタボロのクマ公マークⅢが「ガオーッ」
 雄叫びをあげては、ロケットスタート!

 疾風怒涛の突進により、「きゃいん」と撥ね飛ばされたのは恭平であった。
 若き制服警官がくるくると、きりもみしながら宙を舞う。「ぎょえぇぇ~」
 残心を忘れて、ついふらふら手負いの獲物へと近寄っていたがゆえの悲劇。
 恭平はそのまま池にポチャン、落ちたところへ飢えた鯉どもがビチビチ群がる。
 はたして彼に労災はおりるのか? ナムナム。

 ジローさんをはじめとした熟練警官らは、とっさに横っ飛びやらゴロゴロと転がることでギリギリ難を逃れる。みな『太陽に吠えろ』『西部警察』『刑事貴族』に『危ない刑事』などを観て育った昭和世代。心躍る刑事アクションを子どもの頃からマネしていたので、お手のものだ。

 猟友会の面々は、そもそもそんなヘマはしない。
 ササッと自主回避する。さらにはすぐにクマ公マークⅢへふたたび銃口を向けようとするも、「くっ」と悔し気に銃身を空に向けた。
 突っ込んできたクマ公マークⅢにより左右に割れた陣形。
 この状態で発砲すればフレンドリーファイアーになりかねないからだ。
 それは盆踊り会場内にもいえること。うっかり流れ弾が参加者に当たったりしたら、目も当てられない。
 とどのつまりは、強行突破により銃撃を封じられたということである。

「きゃーっ!」「うわーっ!」「ひぃーっ!」

 ずんずん近づいてくるクマ公マークⅢに会場中から悲鳴があがった。
 なにせいまのヤツの格好ってばヒドイもの。
 池の水で全身ずぶ濡れ、体は蜂の巣で穴だらけ、水草やら土埃まみれのホッキョクグマほどもある双頭四本腕のバケモノ。ゆるキャラ要素なんて皆無ですから。

 ついに盆踊り会場へと乗り込んできたクマ公マークⅢ。
 あわてて逃げ惑う客たち。なかには逃げずに撮影を続行している猛者もいたけれども、それらには目もくれず。
 ヤツは鼻をヒクヒクさせてはキョロキョロと。

 その鼻面が向いたのは運営本部のテントの方であった。あそこの裏手には祭壇が設けられており、叢雲長道が熱心に祝詞を唱えている。
 クマ公マークⅢの狙いはその儀式を邪魔すること。

 運営本部にいた鏡花は「ヒック」
 クマ公マークⅢとばっちり目が合ってしまい、驚きのあまり横隔膜が縮んでシャックリがでちゃった。
 ヘビに睨まれたカエルならぬ、クマににらまれた黒髪美少女。
 以前に追いかけ回された悪夢が鮮明に甦る。
 恐怖で体が固まってしまい鏡花は動けない。
 ズンズン近づいてくるクマ公マークⅢであったが、そこへ割って入ったのが刀と剣の叢雲兄弟だ。

 背後から注連縄を投げつけては、手足にからませて縛り、動きを封じたのは兄の刀さん。
 神道術の武具である六角棒を構え、「ここから先にはいかせない」と行く手を遮ったのは弟の剣だ。

「私が術を仕掛けるから、ツルギは気を溜めてトドメを頼む」
「わかったよ、兄さん」

 素早く注連縄を地面に杭で打ち付け固定した刀さんは、次に懐からお札の束を取り出すと、これを宙へと向けてバサリと散布する。

けまくもかしこき、伊邪那岐大神いざなぎのおほかみ……」

 きらりと光る銀縁メガネ。
 謳うように紡がれるは祓詞はらえことば
 父長道の渋いイケオジボイスとはちがう、若き魅惑のバリトンボイス。
 汗ばんでちょっとはだけた浴衣姿が、持ち前の美形と相まって、妖しい魅力を醸しだす。
 これには逃げ惑っていたはずの女性客たちもおもわず足をとめて、ついうっとり聞き入ってしまうほど。

 刀さんの祓詞に反応してお札たちが宙を舞い上空で渦を巻いた。
 まるでツグミの群のように一丸となっては、クマ公マークⅢへと殺到する。
 顔、首、胸、肩、腕、背中、お腹、足……全身にベタベタと張りつくお札たち。
 お札の表面に朱墨で描かれた文字や模様が、刀さんの声に反応しては淡い光を放ち、それが次第に増していく。

「……まをすことを聞こし召せと、恐み恐みも白すかしこみかしこみもまをす。いまだ、ツルギ!」

 祓詞を終えた刀さんが合図を送れば、「破ぁあぁぁーっ!」
 丹田にて溜め込み練り上げた気もろとも、剣が六角棒を突き出す。
 中段の構えより放たれた刺突、その先端が動きを封じられているクマ公マークⅢへと当たった瞬間、バチッと火花が生じたとおもったら――

 カッ!

 ヤツを中心にして閃光とともにお札が爆ぜた。
 体にまとわりついていたお札たちが次々に爆発しては、連動し、より大きな爆発となっていく。
 やがて特撮ヒーロー番組で、ヴィラン役が倒されたときの演出のような大爆発が生じて、ちゅど~ん!

 神道滅却、叢雲兄弟の合体技が炸裂した。

  〇

 一帯には爆発により生じた白煙が垂れこめていた。
 叢雲兄弟はなおも警戒を解いていない。
 なにせ相手は真姫に一刀両断され、陽子からは季節外れの除夜の鐘を打たれ、紫電の激烈なおもてなしフルコースをもクリアし、恭平たちから蜂の巣にされてもなお、ピンピンしているような怪異なのだから。
 そして当たって欲しくない予感ほどよく当たるもの。

 ギシリ……ギチギチギチ……

 煙の奥で不穏な気配がする。
 それが自分を縛っている注連縄をどうにかしようとしているのだと、刀さんは気がつくも少しばかり遅かった。

 力任せに杭ごと引っこ抜かれた注連縄が、ぶぅんと煙を切り裂く。
 乱雑に振り回される注連縄が刀さんだけでなく、剣をも撥ね飛ばす。

「くっ」
「がはっ」

 吹き飛ばされて地面に転がるふたり。
 とっさに腕で庇うもみしりと厭な音がして、刀さんの左腕がだらりと力を失った。
 剣は六角棒で直撃こそは防いだものの勢いは殺せず、薙ぎ払われてしまった。

 なおもビュンビュンと振り回される注連縄により、煙がズタズタに切り裂かれて散っていく。
 やがて視界があけたとき。
 そこに立っていたのは、荒唐無稽でグロテスクなのに、深夜とかにテレビで放送されているとつい観てしまうB級スプラッター映画に登場するキャラクターのように、ズタボロなっていたクマ公マークⅢであった。
 それでも倒れず「ガオーッ」と吠えている。
 不撓不屈にもほどがある、
 あまりの不死身っぷりに、一同唖然となった。


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