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032 盆踊り ― 真打登場
しおりを挟む「あーそれ、ワッショイ! ワッショイ!」
「ワッショイ! ワッショイ!」
「ワッショイ、ショイショイ!」
女性たちにお神輿のごとく抱えあげられては、負傷した叢雲兄弟が退場していく。
「ちょ、ちょっと待て! 兄さんはともかく僕はまだやれるってば。あっ、誰だ? どさくさにまぎれてヘンなところに手を突っ込んだの!」
クマ公マークⅢの反撃にて左腕を折られた兄の刀さんはともかく、弟の剣は吹き飛ばされたものの、とっさに受け身をとったので擦り傷や打ち身程度ですんでいる。だから当人もまだまだやる気であった。
けれども「あら、まぁ、たいへん! すぐにお手当をしなくっちゃ」と、目の色を変えた女性たちによって攫われ……げふんげふん、もとい緊急搬送されていく。
治療にかこつけてひんむかれて、いったい何をされることやら。
叢雲兄弟、貞操の危機かもしれない。
まぁ、それはさておき。
女神輿と入れ違うようにして颯爽とあらわれたのは……
「いよいよ真打の登場ね。野火精肉店が看板娘、解体小町のマキちゃんとはあたいのことだ。覚悟しなクマ公! 今度こそキレイに解体してやるぜ!」
ポニテールをたなびかせ。
粋でいなせな法被姿はそのままに、ねじり鉢巻きにたすき掛け、真姫は愛用の肉解体包丁を引っさげて立つ。
この日のために腕のいい研ぎ師に頼み込んで磨いてもらった刃が、ギラリと剣呑な輝きを放っている。
「主役は遅れてやってくるもの。稲生電器店が看板娘、賢姫シデン参上! 今度は前のようにはいかないわよ。あなたの弱点はこの新型スカウターで、ばっちり丸っとお見通しなんだから」
もじゃっと鳥の巣頭はそのままに。
着古した白衣の裾を翻し、顔には怪しげな伊達メガネをかけている。紫電の手にはオモチャのグレネードランチャーのようなモノが握られていた。
このメガネが新型スカウターだ。相手の戦闘力がひと目でわかる……なんて機能はないけれども、エネルギーがもっとも集中している箇所とか、熱を帯びているところが外部からでも検知できる仕様にて。
車のエンジンしかり、ミニ四駆のモーターしかり。
もっとも働いているところこそが弱点にて。それはたとえ怪異――憑き神であろうとも、核となる部位がきっとあるはずと紫電は考え、この道具を発明した。
なおグレネードランチャーの方はオマケにて、特製トリモチ弾が装填されている。
「……ふっ、いよいよエースの出番か。日影古書店が看板娘、奇跡の文学少女ヨーコが引導を渡してあげる」
オカッパ頭の動く市松人形のような小柄な陽子。
昔の大学生のように肩に下げているのは、ブックバンドで結ばれた広辞苑(机上版)だ。
広辞苑といえば、ページ数3500以上を誇る書籍界でも屈指のヘビー級である。
人類の英知の結晶による一撃は、数値にはできない威力を秘めている。
ちなみに余談だが、ギネスに登録されている世界一ぶ厚い本は、なんと! ページ数五万オーバー、厚さ4メートルちょいなんだとか。重さも200キロ越えにて、うっかり足の上に落としたら骨が粉々に粉砕することであろう。
三人娘がビシっと芝居がかった口上を決めれば、とたんに周囲からやんや、拍手と歓声があがった。
「よっ、待ってましたー!」「頼んだぞー!」「いてまえ!」「やっちゃって!」「ハイヒールの仇をとって!」「合法ロリ最高!」
などの声援が飛んでくる。
声援に三人娘は手を振り「あっ、どうもどうも」
ちょっと照れ笑い。
一方でそんな三人娘を忌々しげに睨みつけるクマ公マークⅢは「ガルルルルル」
酷い目に合わされたことをしっかり覚えているらしく、全身の毛を逆立て威嚇してくる。
絡み合う視線。
向かい合う三人娘とクマ公マークⅢの間で見えない火花がバッチバチ。
「シデン! ヨーコ! バミューダ・フォーメーションでいくよ!」
「オーケー」
「……了解」
駆け出す三人娘たち。
クマ公マークⅢを囲むようにして動く。
バミューダ・フォーメーションとは……
多数の船舶や飛行機が行方不明になっているトワイライトゾーン、魔の海域バミューダトライアングルのように、対象を三方から囲んではチクチク攻撃する陣形のことである。
この陣形のいやらしいところは、対象が逃れようと動けば三人も一定の距離を保ったまま動くので、抜け出せないこと。
あとは一方にかかりきりだと、すかさず別の二方向から攻撃が飛んでくることも。
「アイタ! やったなこの野郎」
怒ってふり返ったら、とたんに他方からさらにポカンとやられるといった次第にて。
早くも三人娘の意図を見抜いたのか、クマ公マークⅢは三角形の包囲が完成する前に向かったのは陽子のところ。
真姫は刃物、紫電は飛び道具を持っているが、陽子は本である。
三人の中ではもっとも小柄にて、力によりくみしやすいとの判断だ。
けれども陽子はそんな容易く御せる相手ではないし、一見すると包囲の穴のように見えるところも、じつは罠だったりする。
まんまとそれに引っかかったクマ公マークⅢの意識が、完全に陽子へと向いた刹那――
パンッ! パンッ!
紫電のグレネードランチャーが発射された。
砲口よりオレンジ色のカラーボールが飛び出す。見た目は防犯グッズのカラーボールそっくり。けれども中身はモッチモチでネットネトなとりもちにて。
パリンとカプセルが割れて、べったり。
クマ公マークⅢは両のカカトが地面にくっついてしまった。
「スキャンを始めるから、しばらくふたりで相手をしてあげてちょうだい」
紫電は装着しているスカウターのスイッチをポチっとな。
とたんにレンズが妖しく光りだして、ピピピと精査が開始された。
なお完了するまでにかかる所要時間は一分三十秒。
真姫にぶった切られても、恭平らに蜂の巣にされても、叢雲兄弟の神道術の合体技を喰らっても、なおも立ち続けている難敵。闇雲に攻撃を続けて、またぞろメタモルフォーゼなんぞをされてはたまらない。
ゆえに科学の力でヤツの弱点を炙り出すのだ。
とりもちを受けて地面に縫い留められたクマ公マークⅢは、身をよじっては強引に足を引き抜こうとしている。
そこへ「へいへいへい」と真姫と陽子が交互に仕掛ける。
陽子は広辞苑&ブックバンドをブルンブルン。
モーニングスターのように振り回しては、たっぷり遠心力を加えてからズドンと重たい一撃をクマ公マークⅢの横っ腹にお見舞いした。
怒ったクマ公マークⅢはすぐさま黒爪の生えた豪腕にてやり返そうとするも、足が固定されているからおもうように動けず、もたついているうちに陽子はサッと間合いの外へと退避する。
かとおもえば、斜め後方より真姫が肉解体包丁を振りかぶってきたもので、クマ公マークⅢはあわててこれを背中から生えている二本腕で、どうにかしのぐ。
双頭四本腕でなければ一撃を喰らっていただろう。
「ちっ、惜しい。あとちょっとだったのに」
舌打ちにて真姫もまたすぐに飛び退っては相手から距離をとる。
そこへすかさず陽子が……といった具合に、交互にチクチクチクチク……
紫電のスカウターがデータ解析を完了するまで、あと47秒。
10
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