水色オオカミのルク

月芝

文字の大きさ
72 / 286

72 東のデュカと西のフェルナ

しおりを挟む
 
 立派なたてがみが草原の風にゆれてたなびく。
 長い首から背、腰へと艶のある肌の斜面がつづき、おしりにたどりついたとたんに、こんもりと盛りあがった山が姿をあらわす。これはよく発達したお尻の筋肉。そこから大地へとのびる後ろ足のなんとたくましいことか。
 くっきり割れた胸筋からつらなる前足もまた同様。膝から下がより黒さをまし、ひづめの部分が黒く固い鉱石のよう。
 地を駆けるために産まれ、だれよりも速く走るために、己の肉体を練りあげた黒い生き物。
 それは断じて不気味な闇の色ではない、高貴なる黒。
 鋭い眼光を放つは金の瞳。
 そこにあふれるのは圧倒的自信。
 王者の風格にて東の群れ、デュカ族を率いていたのはダイアス。族長の一人息子にして跡取りの大きな黒馬。

 そんなダイアスの視線から一切、目をそらさず、茶色の瞳にてにらみかえしていたのは、南の群れ、フェルナ族を率いているシルビア。
 厳しい冬が終わり、春が訪れ、初夏を迎えてさえなお、山に残る万年雪のようなチカラ強き白さを持った牝馬。
 気高く雄々しい、偉大な族長であった父が病に倒れたので、族長代理をしている娘。
 才能の片鱗(へんりん)は間違いなく彼女にも受け継がれている。だがまだそれは、花に例えるならば、つぼみ。すでに大輪の花を咲かせているダイアスと比べると、どうしても見劣りしてしまう。
 そのせいもあってか、フェルナ族ではしばらくは彼女の成長を見守りささえようとする一派と、すぐに頼りになるムコをあてがうべきだと主張する一派とで、少しぎくしゃくしていました。

 本日の集まりはデュカ族からの申し出により、開かれた会合。

「おくすることなくやってきたか、シルビアどの……。だがよほど恐ろしかったと見える。そのような奇妙な色のオオカミを連れてくるぐらいだからな」

 抑揚のない低い声にて、そうつぶやいたダイアス。
 これを耳にした周囲から、バカにするかのような笑いが起こるも、それは彼のひとにらみにて、すぐに静まりました。

「何を言うか! ダイアス。われらはオオカミなんぞに頼るほど、おちぶれてはおらぬ。そちらこそ姑息にも、その者を用意したのではないのか? 風の草原に住む者のくせに、あさましくも牙にて私の首を狙ったか?」

 風の草原では大地を駆ける速さこそが信条。言いたいことがあれば、通したいことがあれば、まずは己の足で示す。外敵相手ならばともかく、こと住人同士において直接的な暴力にうったえることは、もっとも恥ずべきことの一つ。
 シルビアの発言に、いきり立つデュカ族。
 負けじとフェルナ族の方もいきり立ち、ますます険悪さがましてしまった会合の場。
 これに困ったのは水色オオカミのルク。知らないうちに自分が騒動の種になっていたのですから。

「あのう」

 おそるおそる声をあげたルク。
 するとピクリとすべてのウマたちの耳が動いて、一斉に彼の方に顔を向けました。ウマはとても音に敏感な動物なのです。

「ボクは水色オオカミのルク。旅の途中でここに立ち寄っただけだから、ダイアスさんともシルビアさんとも関係ないよ」

 ルクの言葉を聞いた面々。
 しばしの沈黙の後に、両陣営のあちらこちらから飛んできたのは「そんなこと信じられるか!」「ダマされないぞ!」「そうやって近づいて、首に牙をたてるつもりなんだ!」といった激しい野次。
 どうやら誤解をとこうとして、かえって火に油をそそいでしまったようです。
 再び、騒ぎが大きくなっていき、そろそろほんとうに危ないかも、という時。
 フェルナ族の後方から姿を現したのは、すっかり肌の色艶を失い、筋肉も細くなっている一頭の老馬。名をセルジオという。
 老いてなお、かくしゃくとした足取りにて、ルクのところへと近寄っていく。
 その姿を見とがめたダイアス、「みな、静まれ」と号令を発し、あまりの迫力にデュカ族だけでなくフェルナ族までもが、とたんに口をつぐみました。

 みんなが見守る中、ルクの前までやってきた老馬。

「その冬の晴れた空のような青い毛色……、空の色を持つ者。言い伝えのとおりだ、まちがない。あなたさまは天の御使いなのですね?」
「うん。ボクは、いまは御使いの勇者として、地の国を旅しているところなんだ」
「おぉ、おぉ、なんという僥倖(ぎょうこう)か」

 そう言って老馬はオイオイと泣きだしました。
 突然、涙をながす彼におどろいたシルビアとダイアス、どうしたのかと声をかけます。

「じいや、急に泣きだしたりして、その青いオオカミが何かしたのかい」
「セルジオじいさん、フェルナ族でいちばんの知恵者と名高いあなたは、その者について何か知っているのか」

 うれし涙を流しながらセルジオさんが、水色オオカミについて自分が知っていることを語ります。
 大地に恵みをもたらすエライ方だという話を聞いたウマたちは、さきほどまでとはうってかわって、おわびの言葉を口にし、自分たちの早とちりを恥じて、頭をさげました。
 いささか興奮しやすいものの、自身のあやまちは素直に認めて、あやまれる。
 なんとも一本気で竹を割ったような性格のウマたち。
 みんなからこぞって、あやまられて、かえってルクの方が困惑するほどです。
 もちろんそんな二つの部族を率いているダイアスとシルビアも、すすんでルクに先の無礼の謝罪をしました。

「どうやら巻き込んでしまったようだな、申し訳ない。だが、ちょうどいい。天の御使いである水色オオカミならば、見届け役としては申し分あるまい」

 そう言ったダイアス、シルビアをまっすぐに見据えると声を張り上げました。

「デュカ族はフェルナ族に風の儀を申し込む」

 ダイアスの発言に騒然となる一同。
 はたして風の儀とは? そしてどちらにしろ騒動に巻き込まれることになったルク。はてさて、どうなることやら。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

処理中です...