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253 侵入
しおりを挟む外部にてグリフォン夫妻やドラゴンの三人娘たちが、はげしく交戦しているとき。
無事に白銀の魔女王の城の内部へと侵入をはたしたルクたち。
目指すはティーの囚われているところ。
先導はからくり人形のガァルディア。その手には懐中時計のような品がにぎられており、これにティーの腕輪が発する信号が受信されてあったのです。
「うむ、あっちのようじゃな」
広大な城内にて分かれ道のたびに、画面に浮かんだ赤い点の位置を確かめながら進む。
すると一行のまえに、わらわらと立ちふさがる白い姿が。
白いカエルに白いウサギに白いサルたち。城の雑用係の魔法生物たちです。
それらがホウキやモップ片手におそいかかってきました。
対するこちらには水色オオカミのルク、翡翠(ひすい)のオオカミのラナ、カラクリ人形のガァルディアに野ウサギ兄弟のフィオとタピカ。
戦力的にはまるで相手になりません。かんたんに蹴散らせます。
が、とにかくやり辛い。
「えいや」「とう」「おのれ」
掛け声だけは勇ましいものの、行動がまるでともなっていない白い連中。
この切り絵のような魔法生物たち。数こそは多いもののどうやら戦闘には向いていないらしく、素人丸出し。しかも弱い。
どれくらい弱いのかというと、自身の首から下げた魔法の小袋より取り出したハエ叩きを手にした野ウサギの兄弟に、ペシペシ負かされるぐらいに弱い。
なおこのハエ叩きは西の森の魔女エライザが、彼らの護身用にともたせた魔道具のうちのひとつ。叩かれると電気が走って軽くしびれる。
「とっとと道を開けな! しょうちしないよ」
ラナが一喝すれば「ひぃえー」と悲鳴をあげてクモの子を散らす。
ガァルディアがオノをふりかぶれば、「お助けー」と逃げていく。
そのくせ油断していると、いつの間にかそろりと近寄ってきては、ポコポコとちょっかいをかけてくる。
これがまた非力にて攻撃があたったところで、たいして痛くはないのですが、たいそううっとうしい。
そして追い散らしていると、まるで自分が悪者になったかのような気になってきて、やたらとココロが痛む。
敵らしい敵が出てこないのはありがたいのですが、げんなりさせられる一行。
それでも足は止めることなく先を急いでいたら、ちょっとした大広間に出ました。
自分たちが通ってきた道を合わせると、全部で十二本もの通路があつまっている場所。
いっきにふえた分かれ道。
おもわず足を止めたところで、右の方の通路から飛びだしてきたのは赤い髪の女。
「げっ!」
おどろいて声をあげたのは、やや髪が乱れている紫眼のミラ。
彼女は外でドラゴンどもに岩の巨人兵をけしかけたまではよかったものの、両者の戦闘のあまりのはげしさに、命からがら逃げ帰ってきたところであったのです。
バッタリ遭遇してしまい、対峙することになったミラとルク一行。
にらみ合うことしばし。
一歩まえに出たのは、からくり人形のガァルディア。
手にした懐中時計型の受信機をフィオに託すと、みんなに「先へ行け」と言いました。
以前に森で戦った際に、ミラがカミナリの魔法を巧みにあやつることを知っていたガァルディアは、屋内にて下手に集団でかこむとかえって危ないと判断したのです。
「あとでかならず追いつく」
ガァルディアの意をくんだラナが「まかせた」と駆け出したので、つられてルクたちも走り出す。
遠ざかる足音に、ほっとしていたのはミラ。
ドラゴン三人娘から逃げたとおもったら、こんどは水色オオカミ二頭にからくり人形。立てつづけのピンチに内心ではヒヤヒヤものであったのです。
なので一対一の状況はむしろ大歓迎。
「ったく、まさかドラゴンとグリフォンまで引き連れて、いきなり乗り込んでくるだなんてね。それにしても、よくここの場所がわかったね。いったいどんな手品を使ったんだい?」
さりげない調子にて話しかけながら、ミラはじりじりと移動しつつ、間合いを確保する。
「あぁ、すべてはあの子の人脈よ。アレには私もたまげた。どうやらルクは行く先々でとんでもない方々と知り合いまくっていたらしいからな。おまえたちの居場所に関してはティーのお手柄だな」
会話に応じつつ、自分の身の丈よりもおおきなオノをかまえたガァルディア。すばやく目をやって周囲の状況を確認。
「ティーのお手柄……、ひょっとしてあの腕輪か!」
「ご明察」
「ちっ、魔力なんてカケラも感じなかったのに。アンタと同じで、からくり細工ってことかい」
「それも正解。褒美にからくり王クラフトが遺児である、このガァルディアのチカラを存分に味あわせてやろう」
「ふん、ずいぶんと口が達者なお人形さんだねえ。でもあいにくとアタいはお人形遊びよりも、宝石を眺めるのがスキなんでねっ!」
言い終わるやいなやミラの右手から発したイカヅチ。
ガァルディアはこれをオノのひと振りにて難なく打ち消す。
続けて発生する稲光と破砕音。
大広間全体がビリリとゆれ、戦いの幕が切っておとされました。
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