水色オオカミのルク

月芝

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256 片翼

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 影より突出した漆黒の槍。
 その鋭い穂先を弾いたのは緑氷の剣。

 かつて天の国の勇者として地の国を旅していた二頭の水色オオカミ。
 旅の途中で出会ったガロンとラナはひと目で恋に落ちて、互いの側を己の居場所と定め、勇者としての使命を捨てて、地の国の住人となりました。
 そのことによってラナは蒼天の色を失い翡翠(ひすい)へとかわり、ガロンは白雪に青さの混じった色をなくし銀雪のような姿となる。
 それが故郷と使命を捨てた者の証、選択の代償。それはとてもさみしいことでしたが、互いに寄り添い支え合うことで耐えられた。
 つらいこともあったが、それ以上に幸福だった。共に過ごす刻は、とても満ち足りた時間であった。
 しかしそんな彼女たちのしあわせは、白銀の魔女王のせいでこわされました。
 ガロンは魔女王の呪の魔法によって色を失い傀儡と化し、離ればなれとなった比翼。
 以来、ずっと探し求めていた片翼との再会。
 ですがそれはあたたかい言葉ではなくて、無言の刃でもって交わされるものでした。

 滝つぼの深淵のような碧さを持つ瞳にて、ガロンをにらむラナ。
 対するガロン、そのカラダと同じ色味の双眸には、いかなる感情もうかがえず、どこか空虚さが漂っている。
 魔女王に命じられるままに動くその姿には、かつての雄々しい面影はありません。
 自分が愛した彼はもういない。
 間近で接したことで、いやおうなしにそれをおもい知らされたラナ。身の内にわいてきたのは、かなしい気持ちよりも怒り。
 いっそ完全なるあやつり人形にでもされていたのならば、どれほどマシであったことか。
 これではまるで動くハク製ではないか。生きながらに中身をくりぬかれて、ちがう何かをつめ込まれたようなもの。
 みにくい、なんとみにくい生き物なのだろう。
 色むらのある黒いカラダがみにくいのではない。チグハグな魂と肉体とココロ、その歪なあり様がみにくいのだ。
 かわり果てた最愛の者のそんな姿をこれ以上はとても許せない。
 ラナは覚悟を決めて弟子に告げました。

「ルク、わるいけど、ここは私にゆずってくれ」

 彼らの因縁を知っている水色オオカミの子どもはうなづく。

「わかってる。ボクたちは先に行くね」
「すまない。わがままを言って……」
「ううん、気にしないで。それじゃあ、またあとで」

 師弟が短い別れをすませるのを、じっと待っていたガロン。
 翡翠のオオカミのラナだけを残し、ルクと野ウサギの兄弟が去っていくのも黙って見送りました。
 遠ざかっていくルクたちの気配。
 それを背後に感じながら、己が気炎を高め、戦いの準備を整えていく翡翠のオオカミ。

「行かせてしまってよかったのか?」
「かまわない。オレが命じられたのはこの場の警護だ」

 ラナの言葉に、淡々とした調子にてどこか他人事のようにそう答えたガロン。
 これにラナは柳眉を寄せる。
 白銀の魔女王レクトラム、彼女が侵入者の迎撃ではなくて、この場所を守れとガロンに命じた、その真意をラナは考えます。
 侵入者なんぞ自分のチカラでどうとでもあしらえるという、自信のあらわれなのか。
 それともあるいは……。

「あるいはここが……、いや、あの時間の止まった古時計に、それだけの意味があるということか」

 つぶやくなりラナは空中に緑氷の剣を三本出現させると、これを放つ。
 二本はガロンへと、一本は古時計へと向けて。
 ほぼ同時に目標へと到達した切っ先。
 これをすべて弾いて見せたのは、影が変じた槍たち。
 自分の考えに確信を得たラナは、さりげなく移動しつつ、ガロンが古時計を背負う形になるようにと立ち位置をかえました。
 これによりガロンは彼女の攻撃をよけることができなくなる。
 翡翠のオオカミが雄叫びをあげると、しゅんじに空中に出現した緑氷の直剣。
 その数、十。
 そのうちの一本を口にくわえてラナが駆け出す。
 これに並走するかのようにして九つの剣も飛翔を開始。
 風をきり、宙を疾走して、やがて主を追い抜くと、まるで先駆けを競うかのように、その切っ先が黒まだらオオカミへと殺到しました。


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