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274 探検隊結成
しおりを挟む居留地に滞在中、首長や三長老たちの思惑とは関係なく、クルセラとルクはいっしょに過ごす時間が多くなっていく。
クルセラとしてはルクは命の恩人でもあるし、自分が招いた客ゆえに、自ら世話を焼き歓待するのは当然といった感覚。
ルクとしてもクルセラがここでは一番の知り合いですし、他に頼れる相手もいないので、自然とそういう流れになっていく。
上の考えなんて何も知らない周囲は、そんな若い二頭を「お似合い」だの「ようやく女戦士に春が来た」なんぞと、からかい半分にてはやしたてる。
そのかたわらで悶々と過ごしていたのはシュプーゲル。
見た目こそはいつも通りでしたが、どこかピリリとした緊迫感が漂っており、ニャモや一部の敏感な者なんぞはこれを察して、彼から距離をとっておりました。
滞在五日目の夜。
泉のほとりにて涼みがてら水面に映る月を眺めていると、いつになく真剣な表情をしたクルセラにルクは詰め寄られる。
彼女の琥珀色の瞳の中に映る自分の姿がしっかりと見え、吐息がかかり、体温が感じられるほどの距離にて、クルセラが口にしたのは協力要請。
「たのむ。ルクがいればきっとあの砂の海を越えて、その中心部にたどりつけるハズなんだ。わたしはどうして自分たちがこんな目にあっているのか、その原因を知りたい。何も知らないままでやられっ放しってのが、どうにもガマンならないんだ」
とっても勝気なクルセラ。
彼女がたった一度の失敗で真相究明をあきらめるとはおもっていなかったルク。いずれはこんなことを言い出すかもとは考えていましたので、それほどの驚きはありません。すっかり親しくなったことですし、群れのみんなにもよくしてもらっているので、手伝うのはやぶさかではありません。
ただし、ここで意外なことが起こります。
「その旅、オレも同行させてもらおう」
のそりと物陰より姿をあらわしたシュプーゲルが言いました。
これに「冗談じゃない」とかみつくクルセラ。「次期首長候補さまが何を言ってるんだ? アンタにもしものことがあったら、群れはどうなるんだよ」
「どうもこうもない。それにどのみち原因を調べて対策を講じなければ、群れに未来はないと言っていたのはおまえじゃないのか。ならばなおさら誰か責任ある立場の者がついて行って見極める必要がある」
「しかし!」
「たとえ真実を目にしたからとて、一頭の証言では弱い。それが過酷であればあるほどに、都合の悪い現実から目を背けようとする意見が大勢のジャマをする。それを封じるためにも二頭で行くんだ」
「ぐぬぬ……」
みなを束ねる立場だからこそ出てくる意見にて、シュプーゲルに完膚なきまでに言い負かされたクルセラ。不機嫌な顔にて顔を横に向けるも、しぶしぶ了承する。
「オレはこれから父に許可をもらってくる。出発は明日の夕方になるだろうから、それまでに準備を整えておこう」
言うだけ言うとシュプーゲルはさっさと行ってしまいました。
去っていく彼に「この仕切り屋めっ」と、クルセラが舌をべーと出す。
正直なところ先の言葉が彼の思惑のすべてだとは信じていないルクですが、内心では彼の旅の同行を歓迎してもいました。
なにせクルセラは直情型につき、グイグイとこちらを引っ張っていってくれるのは、とても頼もしい反面、ちょっと制御不能になるとこわいので。
その点、いつも一歩下がって冷静に全体を見極めようとしているシュプーゲルのような存在は、きっといいブレーキ役になってくれることでしょう。
シュプーゲルとクルセラ、ルクの三頭による調査隊の結成と砂の海への旅は、おもいのほかにあっさりと許可がおりました。
過酷な砂の海の旅も、水色オオカミのチカラがあれば問題なかろうとの判断。
それに首長や長老たちもまた本心ではずっと知りたかったのです。
自分たちの故郷にいったい何が起こっているのかを。
こうして結成された探検隊は、予定通りに出発することになりました。
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