剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!

月芝

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010 南の島のチヨコ

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 白い砂浜にほど近いところにある木陰。
 木々の合間に吊り下げられた麻布は、肌触りがよく風通しもいい。
 両端がしっかり固定されてあるので、ちょっとぐらい上ではしゃいでも大丈夫。
 これに仰向けとなって寝っ転がる。
 ヤシの実の果汁を飲みつつ、ヤシの葉に包んで蒸しあげたイモモチを食す。
 フム。もっちもちの食感と上品な甘さがすばらしい。モグモグ。
 味に飽きたら南国の果物類に手をのばす。
 色や模様が毒々しいので、食べるのにちょっと勇気がいるけれども、味が濃厚で甘いものが多く、これまた美味。
 ほどよく腹が満たされたところで、白浜と青い海に目を細め、寄せては返す波の音に耳をかたむけながら、おだやかな潮風を頬に受けまったり過ごす。

 勢いだけで南海へと飛び出したものの、大自然の逆襲にあってフラフラになっていたところを、たまさか近くを通りかかったヨスさんに助けられた、わたしことチヨコ。
 日頃の行いのおかげか幸運は重なる。
 なんと、探し人のホランまでもがヨスさんの所属している海の民の集団にお世話になっていることが判明。
 かくして再会をはたしたのだが、肝心のホランが記憶喪失中。「おまえ誰だ?」状態。
 お話にならないから、とりあえず一発ぶん殴っておこうとしたんだけれども、それはヨスさんらに止められた。
 そんな出来事があったのは、早や三日も前のこと。
 わたしの現状はご覧の通り。
 客分という立場に甘んじて、おおいに羽をのばし、南の海を満喫している。
 あぁ、太陽がまぶしい。
 で、ホランの方はみんなの仕事を手伝いつつも、絶賛お悩み中である。
 彼の事情はこうである。

  ◇

 再会直後にすったもんだでひと悶着。
 冷静さをとり戻したわたしがヨスさんから紹介されたのは、この集団を率いるヨンドクという角刈りのおっさん。
 彼こそが漂流していたホランを助けた人物にて、ネクタルという黒髪の乙女の父親でもある。素潜り漁の名人でもあり、びっくりするぐらい深く長いこと水中に潜っていられるんだってさ。
 挨拶とお礼を述べてから、わたしはホランの身元について言及。
 とはいっても影矛であることは秘密。だから、あくまで神聖ユモ国の軍人ということにしておく。
 自分についてはホランの縁者であり、剣の母関連の情報は伏せつつ、特殊な魔道具を華麗に操る魔女っ娘と誤魔化しておいた。
 ヨンドクのおっさんからはめちゃくちゃジト目を向けられたが、素知らぬふりして乗り切る。夏の海は女を大胆にするのだ。言ったもん勝ち。
 で、とりあえずわたしのことは脇へとよせておき、問題となったのがホランのあつかいについて。
 すでに周知のとおり、ホランはヨンドクの娘ネクタルといい仲になっている。
 ホランは好青年だし、もしも当人さえよければ、娘婿としてこのまま海の民に迎え入れてもいいとさえヨンドクは考えていたそうな。
 そこにあらわれたのがわたしである。
 これによってホランには選択肢が発生した。
 頭をぶん殴られて記憶をとり戻し、本来の自分の居場所へと帰るのか。
 このままネクタルと第二の人生を歩むのか。
 わたしとしては安否確認さえできたら、それで満足。ぶっちゃけホランが好きなようにしたらいいとすら考えている。
 だって皇(スメラギ)さまの影として生きる道は、やりがいはあるものの、つねに命の危険と隣り合わせなんだもの。
 いっそのこと何もかも忘れたままで、好きな女性と生きていくほうが、よっぽど健全な人生であろう。
 とはいえ記憶を失ったままというのは、かなり心細いらしい。

「なにやら胸のあたりにぽっかりと穴があいたような状態で、落ち着かず、絶えず不安がつきまとう」とはホランの言葉。

 ならば記憶をとり戻したうえで、黒髪の乙女と人生を謳歌すればいいだけのこと。
 とはいえ、ことは頭の中の問題。どう転ぶのかはちょっとわかんない。
 そもそもの話、本当にぶん殴ったら元に戻るのか?
 記憶喪失の間のことはどうなるの?
 ネクタルのことを忘れてしまうなんていう、最低最悪な結果も無きにしもあらず。
 益と不利益を秤にかけて、どうしたものかとホラン青年はとっても迷っている。
 ホランの選択を見守るネクタルもとっても物憂げ。
 ネクタルと仲がよく姉妹のような間柄のヨスさんも、そわそわ落ちつかない。
 どうなることかと二人の恋路を見守る仲間たちも、ザワついている。

 とてもムズカシイ問題につき、じっくりと考えさせてあげたい。
 けれどもそれを許さないのが、集団をとり巻く事情。
 いまの南海の情勢はかなりきな臭い。 
 海賊どもが我が物顔で横行し、ただでさえ不穏であったのに、これに輪をかけたのが黒鬼と呼ばれるナゾの鉄の船の出現。
 取り締まる側の神聖ユモ国の海軍は萎縮してしまい、海賊の方はすっかり息を吹き返してしまった。
 国に所属せず、その庇護下にない海の民にとっては危険極まりない状況。
 だから近々にこの海域を離れることが決まっていたのだ。
 海の民として自分たちといっしょに来るのか。
 それとも残り陸へと帰るのか。
 いろんな選択を同時に迫られたホラン青年が悩むのもムリからぬこと。
 けれども残された時間はあまりない。

「潮の流れや風の向きもあるので、待てるのは五日」

 ヨンドクから与えられた猶予はそれだけ。
 そして残るはあと二日。
 はてしてホランはどうするのか。
 まぁ、わたしは彼がいかなる道を選ぼうとも応援するだけなので、その時がくるのをまったり過ごして待つばかりである。


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