剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?四本目っ!海だ、水着だ、ポロリは……するほど中身がねえ!

月芝

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012 鬼退治

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 まずはヨスさんらが漁をしていたという場所へ。
 舟の残骸が散乱していたから、襲撃現場はすぐにわかった。
 念のために周辺をひとまわりするも、人影はなし。死体が浮いてないことに、わたしはちょっとホッとする。ヨスさん以外は全員が黒鬼とかいう海賊船に捕まってしまったみたい。

「海の民を襲ったってことは、お金目当てじゃないよね。とすれば、目的は人そのものか」

 神聖ヨモ国をはじめとする近隣諸国では、人身売買と奴隷制度は禁止されている。
 とはいえ、なにごとにも抜け道があるもの。
 罪を犯した者が犯罪奴隷として鉱山とかで働かされることはあるし、借金のかたに労働力として奴隷に近いあつかいを受けている人たちもいる。
 悪党ほどよく知恵がまわるもの。法や制度の隙間を小狡くついてくる。
 そしてところかわればなんとやら。ひょっとしたらわたしが知らないだけで、公然と人身売買や奴隷の存在を認めている国があるのかもしれない。

「ねえ、ミヤビ、みんなの気配を追える?」
「ちょっとお待ちください、チヨコ母さま。
 ………………かすかにですが南西に反応アリ、ですわ。
 かなりの速度で移動しているようですが、それにしても、これは」
「どうかしたの」
「反応がおかしいのです。気配が希薄、というよりも、妙に存在がぼやけているというか、薄めた墨汁みたいで、どうにもはっきりしません」

 ミヤビは遠ざかる黒鬼に、通常とはちがう反応を感じて首をかしげている。
 とはいえ追うべき相手の場所がわかった以上は、まごまごしている暇はない。
 わたしたちはさっそく南西を目指し、飛んだ。

  ◇

 反応を追尾し、南西へと飛ぶほどに霧が濃くなってゆく。
 白いモヤが、灰色へと変わり、ついには銀砂をバラまいたような色味を帯びてきた。
 いくら海のことにはうといわたしでも「さすがにこれはただの霧じゃない」と気がついたとき。
 進路上にて轟音が鳴り響く。
 突如として前方の霧に大きな風穴があいた。
 ものスゴイ勢いで飛んできたのは、黒い塊の何か!
 巨人の親指の先をちょんぎったような形をしている?
 ミヤビが右に急旋回して、これをかわす。
 わたしたちの脇を通り過ぎていった黒い物体は、後方へと抜けたとおもったら、唐突に閃光を放ち爆発。
 爆風にあおられて、おおきくかたむいたミヤビが叫ぶ。

「チヨコ母さま、しっかりつかまって!」

 言われるままに、はりつくような姿勢となったところで、「ヒュン」という風切り音とともに「カカカカカン」と激しい音がっ。
 まるで大量に降ってきた雹(ひょう)が屋根に当たったときのような音。
 正体不明の黒い物体が爆発して、内部にあった大量の小さな粒々が四散。襲いかかってきたそれらが剣身を打つ。
 ミヤビがとっさに己が身を盾としてくれたから助かったものの、わたしはゾッ。
 もしも対応が遅れていたら、いまごろわたしのカラダはズタボロにされていたのにちがいあるまい。
 しかし真に驚愕するのはこれからであった。
 前方より次々と飛来する黒い何か。
 機動力に優れるミヤビは巧みにかわし続けるも、それにしたって狙いが正確すぎる。

「霧で視界がほとんど利かないはずなのに、どうしてこっちの居場所がわかるのっ!」
「わかりません。なにやらこの霧にからくりがありそうなのですが。こうも攻撃を続けられては、おちおち解析している余裕がありません、ですわ」

 一方的な攻撃にさらされて、ひたすら飛んで逃げ続けるわたしたち。
 それでもどうにか隙をついて接近しようとしたところで、さらなる奇怪な現象を目の当たりにすることになる。
 飛んでくる黒い何かへと臆することなく突っ込み、かわしつつ距離を詰めて接敵。
 ようやく霧の奥に大きな船体が見えた!
 懐に入ってしまえばこっちのもの。
 とおもったら、黒鬼がいきなり横へスイと移動したもんだから、びっくり仰天!
 船は基本的に前後にしか動けないはず。なのに黒鬼は船首をこちらに固定したまま、海面を滑るようにしてカニみたいに横移動をしていやがる。しかも巨体にもかかわらず、かなりの高速でっ!
 広げた扇のふちをなぞるような、ありえない軌道を描く巨船。
 正面から勢いのままに突っ込んだわたしたちは、黒鬼に無防備な側面をさらす格好となってしまう。
 この位置はマズイ。白銀の大剣がすぐに旋回をはじめるも、その進路上の海面から突如としていくつもの水柱があがった。
 次々とあがる水柱を右へ左へ、避けながら進むことを余儀なくされたミヤビ。自慢の機動力が大幅に低下。
 こちらの動きがもっとも鈍くなるのを見計らっていたかのように、いっそう巨大な水柱があがる。
 前方の視界がすべて海水の幕におおわれてしまった。
 急なことでかわすこともできなかったわたしたちは、そのまま海水の幕へと突っ込むことに。
 幕の厚さはさほどでもなく、わたしが少し息を止めているうちに通り過ぎる程度。
 けれども直後に待っていたのは、まばゆいばかりの閃光と宙いっぱいに広げられた網。
 どうやらあの爆発する黒いやつには、いろんな種類があったらしい。不覚……。
 多彩な武器と海という戦場を巧みに用いた戦術。
 こちらの完敗であった。

  ◇

 網にからめとられて海中へと没したわたしとミヤビ。
 モタモタしていたら黒鬼に喰われちゃう。
 すぐさま脱出をはかろうとするも、それはかなわない。
 海の下には急な潮流の層があって、これに巻き込まれてしまったからだ。
 ものすごいチカラでぐんぐん引っ張られる。
 もう何が何やら。
 あーれー、目がまーわーるー。
 でもって、海底の大渦の中心にいたのは、どデカいイソギンチャクの禍獣。山と見まがう超巨体、ちょっとした宮殿ぐらいはあるかも。
 この潮の流れは禍獣が獲物を捕食するために発生させていたもの。
 気づいたときには、パクンとひと呑みにされちゃってた!
 剣の母チヨコの冒険、これにて終?


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